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依存
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ミネラルウォーター、喉を通りすぎる。冷たくて熱が引く、愛し合うのは簡単でも、その行為の中で愛を確かめるのは酷く難しい。
「尻が痛い」
「王子様が尻とかいうなよ、女が泣くぞー」
「恋、すげーすっきりした顔してるのなんで?」
「いやいや。すっきりさせてもらいましたからね。よーしよし、愛ちゃんがんばったねー、次は俺がそっちでいいからそんな不貞腐れんなよ」
男同士で性行為をするっていうのは、なかなか非生産的で虚しい。一回に何億の命のタネが無駄になっていくんだろう。俺が女だったら、って、何億回考えたら気が済むんだろう。
部屋に置いてあるギターを握って、ベッドに背を預けて弾き始めるその姿を、ベッドの上からじーっと見つめる。赤い頭がゆらゆらと揺れるのが、恋の癖。
「それ、聴いたことない曲だなぁ」
「これ、聴かせたことない曲だもん。庄司くんのために作ってんだけど、すげーイマイチでさ。」
「ねえ、いつになったら俺のために曲を作ってくれんの?」
「んー?ははっ、プロんなったら?」
恋が何気無しに言った言葉に心臓が跳ねる。それは、俺のために曲を作ってくれるっていう高揚からとは違う、焦り。
プロになったら、って。そんなの。
恋、プロになりたいの?ギター一本で食って行く気なの?
っていうことは、それは、えっと。
「恋って、進路決まったの?」
焦り、焦り、焦り!
焦りを隠すためにもう一度、水色のキャップを回してミネラルウォーターを飲み干す。恋が奏でていたギターの音が、ぴたり と、止まった。
時計の針が動く音がする。恋の部屋は、恋がギターを覚えた日からこの秒針が聴こえることは滅多になくなった。何秒、返答に迷ってんだよ。おい。
「……………ぜーーんぜん?」
嘘だ。
きっと恋の中ではもう、…いや、ぼんやりと、将来が、夢が、見えているんだろう。
その夢に俺も連れていってよ。なんで隠すの、なんでも話してよ。
「愛は?進路どーすんの?」
「俺は………、恋の、」
「俺の?」
「恋の花婿さんかなぁ」
「バーーーカ!王子様じゃものたりねーの?すげー強欲だな!」
「なんで笑うの?!すげー真剣なんだけど!」
恋の笑っていられる場所に居たいだけ、あなたの傍にいたいだけ、それは、そんなに強欲ですか、ナイト様。
恋、もしプロになるって決めたら、俺もそこに連れてって。
俺は、恋のことをなんでも知ってる。俺から見えている、恋のことは、ほんとになんでも。だけど、恋から見える俺のことは、俺にはわからない。恋から見える景色は、俺には見えない。
前に言っていた。ライブ中は証明がまぶしくて、ほとんどなんにも見えないこと。だけど俺だけは、見つけられるって。そう言ってくれたのが嬉しくて、たまらなかった。
次にライブ、見に行ったら。
その時もまた俺を見つけてくれますか。
「愛は頭もいいし、顔もいいし、背も高いし、まー運動は残念だけど、いい大学行けんじゃね?」
「顔と背、関係ないよね」
「馬鹿野郎お前、なんでも第一印象が大事なんだよ、汚ねぇもんより綺麗なもんのほうが好きだろ、人間は」
「なにそれ…ていうか俺が大学いくの前提かよ」
「は、何お前、受験しねーの?まさかの就職?」
「就職、はまだヤダな。恋と同じ大学なら行く。」
「…もー!お前は!いつも俺の後ばっかついてきたらダメよ?ロクな人生になんねーって!」
「俺、重いかなぁ」
「重…?!いや、重くねーよ平気」
嘘。
ほんとに平気だったら、こんな話の最中に髪をいじったりしない。恋は嘘が下手くそ。
先にすきになったのは間違いなく俺。もし恋がこの世から消えてしまったらどうしよう、って考えるだけで眠れなくなった。そのうえ、恋をオカズにしてみたら、沈黙を決め込んでいたムスコさんも元気になった。間違いなく恋をしたんだと思った。単純な理由だけど、間違いなく、俺の隣にいて欲しいのは恋だと思った。
覚悟はしておこう。恋とこの街を出る覚悟を。恋も一人じゃ寂しいだろ、ずっと俺が傍にいたんだ。話し相手もいなかったら寂しくて死んじゃうと思うんだよ。お前、そうじゃなくても寂しがりやなんだし。
「恋の進路が、俺の進路だよ」
何気無く言ったこの言葉が、綻びを生むとは思ってもいなかった。
いつも俺と一緒にいるからって、全くおんなじ思考回路のはずがないのに。俺に背を向けていた恋の表情は見えなかった。俺は笑っているとばかり、思っていた。
喜んでくれるとばかり、思っていた。
これが愛だと、疑うこともしなかった。
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