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二人
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卒業式は思っていたより泣かなかった。高校生活は楽しかった。みんな声、かけてくれて、「東京でバンド頑張れよ!」とか、「王子様の写メよろしく!」とか、「たまには帰ってこいよ!」とか。明るい顔で手を振った。打ち上げ、行きたかったけど、引越しがあるから断念。
必要な荷物は全て先に送ってある。俺は白いリュックに携帯とタバコと財布、それからギターだけを背負って、家を出ようとしていた。鬼ババアの母ちゃんが「ちゃんとご飯たべなさいよ、あと愛ちゃんのこと、面倒みてあげなさい。それから人様に迷惑はかけないこと、あと、お金が必要なら電話してきなさい、たまには顔を見せなさい」と、少し泣きそうな顔をしていうもんだから、鼻の奥がツンとした。
「任せろよ、大丈夫だって。立った四時間の距離だぜ?すーぐ帰ってこれるっての。母ちゃん、ありがとな。俺、ちゃんと夢掴んで、テレビとか出ちゃって、嬉し泣きさせてやっから!」
ぽん、と叩いた母親の肩は、思っていたよりずっと細かった。
いつのまにか俺は大人に近づいている。親に育てられ、支えられ、気づかぬうちに母は小さくなっていく。その肩の細さに驚いた。大丈夫、苦労かけてごめん、絶対、絶対、俺が夢、掴んでさ。母ちゃんごと幸せにしてやるから!
ぎいっ、と玄関のドアを開けたら、愛と美咲ちゃんがすでに玄関の前に立っていた。
「恋ちゃん、愛をよろしくね」
相変わらず綺麗な顔で微笑む美咲ちゃんに、大きなクリームパンが一つ入った袋を持たされた。あ、そっか。美咲ちゃんのクリームパン、食べることももう、ないんだな、と感じる。
「ありがと!電車の中で愛と分けるわ!」
そう言うと、美咲ちゃんはにっこりと微笑んで「そうね」と言ってくれた。
愛の荷物も俺と似たようなモノで、クラッチバックをひとつ持っているだけだった。そんなので大丈夫かよ、と、まあ人のこと、言えねーけど。
母に、母たちに手をふって、駅まで歩き出す。今日、から。
俺たちは二人で生きていく。
「愛ー。メシは当番制な。」
「…うん、恋はもうすこし料理の勉強したほうがいいかもな。」
「おいコラ 、どういう意味だ!」
バシッと背中を叩くと痛いよ、と言われた。
「お前、バイトしろよー?家賃も光熱費も半分個なんだからなー!」
「分かってるよ。あ、恋ちょっと急ごうか。電車の時間、遅れそう。」
「まじかよ!!走るぞ愛!」
駅まで競争でもするかのように走った。愛は鈍臭いし運動ができないから足が遅いので、俺は愛の手を引っ張りながら、走った。
「恋、そんなにひっぱったら痛いよ」
「乗り過ごしたら、せっかくの門出が台無しだろーー!!」
「…それも、そうだね。」
手のひらがじっとりと汗ばむ。
なんだか、懐かしい気持ちになった。
昔から、そうだったなって。
俺が手を引いて、ここまで走ってきたなって。
これからも、そうやって、二人生きていくんだなって。
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