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お星様
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碧く澄み渡った空、太陽、金木犀の香り。
人はきっとこういう日を『死ぬにはピッタリの日だ』と言うのだろう。
けれど生憎、ノアという男はそういった感性を持ち合わせていない。
つまり何でもない、ただ自分の命日だとしか認識していないのだ。
正直、勿体ないと思う。
自分の教育係も引き受けてくれているノアは容量も頭もいいし、なにより人望が厚い。
王の補佐官でもある彼が声を上げればきっと例外として生かして貰えるかもしれないのに、それをしようとしないなんて。
「シン?行こうか」
柔らかで、鶯が囀るようなその声で名前を呼ばれ慌てて後を追う。
「あぁ、ハイ!」
と、そこへ後ろからドタドタと忙しない足音が迫ってくる。
「ノアー!!ノア!!!聞いたよ、明日だってね!!」
恐る恐る振り返ると、頭3つ分程小さいツインテの頭がノアに飛びついてくる。
完璧油断しているようにも見えたノアは、しっかりとそのツインテを抱きとめて、困ったように肩を竦めた。
「はは、ウェンは相変わらず情報を手に入れるのが早いんだね。パパラッチ目指したら?」
「ふふん。情報通だと言ってちょうだい。
ってそうじゃなくて、ノア明日ついに18回目の誕生日だって」
「うん。そう。祝ってくれるの?」
ノアが意地悪な表情を作ると、ウェンと呼ばれたツインテは途端に落ち込んだような顔を浮かべた。
「大丈夫。心配しなくても、もう未練はないよ」
「……そっか、なら…寂しいけどおめでと!」
そう元気よく言ったウェンの顔はもうすっかり元通りになっていて、改めてノアの顔の広さや信頼感を目の当たりにした。
人口の9割を天使が占めているこの国では、天使として生まれなかった人間を18回目の誕生日に流れ星に昇華する文化がある。
来世では天使になって生まれ変われますようにと、そう願いを込めるのだとか。
お綺麗な話に聞こえるが、言ってることは『特別な力も永遠の命も無いのなら死ね』ってことだ。
ノアに『勿体無い』と言う人が大勢いる。
天使の力がないのにも関わらず、千をも超える薬品の知識を持ち、独学で学んだ科学の術は多くの天使に嫉妬させ、ついに18という異例の若さで王の補佐官として選ばれたノアがついに明日死ぬのだから当然といえば当然だ。
むしろ今週会った中で『おめでとう』だけを言ったのはこのまだ幼いウェンくらいなのでは無いだろうか。
お星様になれる、か。
「……俺はお星様になんてなれないよ」
「うん?」
「ううん、なんでもないよ」
まだお話しようと駄々をこねるウェンに光る飴玉を渡して、今日の仕事につく。
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