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sideコノハ アザミに誓う
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(最低だ、おれ、、、)
走りながらさっきからその事ばかりが頭の中で反復する。
頬が少し温かい。今は気にしていられない。
さっきチハルとシュンタに言われたことがずっと胸の辺りに残っている。
違う、傷ついていいのはおれじゃない。
おれが八つ当たりしたせいでまたケイを傷つけてしまった
(あっ、、ここ、)
気づくとすこしひんやりとした秋の風が頬を撫でた。
おれは無意識のうちに屋上へ来ていたらしい。
いつもだったら手術とかが終わったら頭をリセットさせるためにここへ一人で来ることが多い。
(、、ほんとおれ何やってんだろ、、)
手すりに身を預けて外の空気を思いっきり肺に取り込む。
冬が近いのだろう、少しだけ空気が硬い気がする。
(なんで助けられなかったおれがあんなに偉そうに言えるんだ、、)
運ばれてきた小さい体。
あたたかかった、息だって脈だってあった。
なのに助けられなかった。
(おれがもっとすごい医者だったら、、誰でも救えるスーパードクターになれたら、、)
そんなことばかりが頭をよぎる。
流したくもない涙か溢れて止まらない。
「おれがもっとしっかりしていたら、、」
夕日が目にしみる。
空は雲ひとつないのにおれの心はずっと霞みがかって前を見ることが出来ない。
「やぁっぱりコノハここにいた。大当たり」
自分の背後に影ができている。
「はーい。それ以上はだぁめ、、。」
後ろから声がしたと思った次には突然目を覆い隠された。
まるでおれに何も見せないよとでもいうように光さえも通さぬようしっかりと遮られる。
「、、つばめ、、」
「なぁに、コノハ?なんでも話してみなよ」
声が震える。
言いたいことが沢山あるのに言葉につまる。
「、、ぉ、れ、、また助けれなかった、、」
「うん。」
何も言わずに優しく相槌を打つ。
「まだ、、あったかかったんだ、、ちゃんと息もあったんだよ、、なのに」
「シュンから聞いたよ、もうここに来た時点で危なかったんだよね、、頑張ったよコノハもシュンタも、、」
(違う、ちがうんだよ、、だって)
「でもっ、、救えなかった!!助けれなきゃ、、」
まだ手に感覚が残っている。
トクトク、と頑張って生きようとする心臓の鼓動。
おれはそれを繋げなくちゃいけなかった。
なのに、
「それはちがうんじゃないの?あれは仕方がなかった。コノハ、おまえも救命医ならある程度は覚悟を持っているだろう?」
(分かってる、、わかってるよ、、)
そんなこと分かっている。
毎日ギリギリのところで少しでも多くの命を繋ぐ。
それがおれの、おれたちの役目だ。
でも、だからこそ
「それでも、、悔しい、、!あの子は頑張ってたのに、、」
奇跡なんて起きてくれない。
そんなものがあったらあの子は助かった。
パッピーエンドになったのに、、
「、、そうだね、僕も悔しいよ、、」
「、、それにケイのことまた傷つけた、、
またおれのせいであんな顔させちゃった、、、」
子供のことで八つ当たりをしてしまったのは事実だ。
でもシュンに指摘されるまで気がつけなかった。
「おれ、、ほんとに最低な人間だ、、
このまま、、、」
「コノハ、、」
(だめだ、、これは言っちゃいけない、、)
分かってる。頭では理解出来てるんだ。
でも口が止められない。
「このまま消えてしまえたら、、、」
「っ、、、コノ、、」
(だからおれは、、おれが大っ嫌いなんだ、、)
ゆっくりと手を退けられる。
さっきまで明るかったのにいつの間にか空はほとんど紫に染まっていた。
「っごめん、、ダメだなおれ、、やっぱり、、」
ケイのことになると冷静になれない。
でも、ただ少しだけ嬉しかったんだ。
もう一度あの頃に戻れたみたいで、、
「ねぇ、ツバメ?おれねすごい安心したんだ。ケイが隣にいてくれて、、おれがケイの未来を壊しかけたのに、もう一度あの頃に戻ったみたいで、、」
「僕もだよ、、ケイが救命に戻ってきてくれたらってずっと思ってたから、、」
ツバメが優しく同調する。
その温かさが苦しかった。
「でもねやっぱりおれはケイの傍にいちゃいけない。
あのことだけじゃない、"あいつ"のことも思い出してしまうかもしれない、、、」
それだけは絶対に避けなくては。
そう言っていると遠くのそらにひときわ明るい星が見える
高校時代もこうやってみんなであれをみていた。
「、、見てツバメ、金星が見える、、」
欄干から体を少し乗り上げさせ指で辿る。
まだ完全に暗くなっていないなかただ一つ懸命に輝いている星だ。
「うん、、、」
ツバメが隣に来て二人で明星を眺める。
「おれにとってケイは明星だよ。ずっと遠くで自分なりに光り輝いていてくれればいいんだ。おれはそれを眺めていられるだけで幸せだよ、、、たとえ傍にいられなくたって、、」
するとそっと手を重ねられる。
少しカサカサしている、でも温かい手が確かにそこにあった。
「コノハ、、お前も許されていいんだよ、、
どっちもお前は悪くない。悪いわけがないんだ、、、悪かったのは、、、」
そういうとツバメは少し項垂れておれの手を固く握る。
何も答えられない。どれだけそんな言葉をかけられていたのだろう。
でも、、それでも、、
(ごめんね、、だめなんだ、、おれなんかが許されて言い訳がない)
ケイが大好きだよ。
誰よりも大切で絶対に二度と傷つけはさせない。
おれのたった一つの一等星。
(おれみたいに汚れたやつが触れていい人じゃないんだ、、こんな穢れた体で、、)
だからこそ、おれでも絶対にケイだけは守り抜く。
たとえそれがこの身を壊そうとも、もう一度だってあんなことはさせない。
必ずおれだけは最後までケイを守る盾であろう。
どれだけ嫌われ蔑まれたとしても。
(誓うよ、ケイ、、絶対に守るから、、)
「、、コノハ、戻ろう。そろそろ上がりの時間だよ。」
ツバメが柔らかく告げる。
その言葉にうなづいて戻ることにした。
(帰ったらチハとマコにも謝らなきゃ、、)
多分チハはニコニコしながらめちゃくちゃ怒っているだろうな、、、
そう思うと少し鳥肌が立つ。正直怖いから戻りたくないのだかガッツリツバメに腕を掴まれているためそれは叶わなさそうだ。"逃げんなよ"と無言の圧をかけられる。
「コノハ、これだけは忘れないで、僕らは何があっても二人の味方だ。だから一人で抱え込まないで。」
おれの目を真っ直ぐ見つめてツバメが口にする。
(、、ありがとうツバメ。)
「うん、そうだね、、、」
冷たい空気が優しく体を包み込んで、、
そこにはもうすぐ寂しくも暖かい季節が巡ってくる。
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