アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
いない
-
『テっちゃん!?どどどどどしたの!?え、な、泣いて……え!?え、いや、ちょっ、まっ、………え!?』
僕の様子がおかしいのに驚いたのか、とても動揺する高尾君。普段なら笑ってしまうくらいの動揺でも、今は流石に笑えませんでした。
学校をでて、行き先のないまま歩いて、歩いて。行き着いた公園のブランコに座り、キィ、と少し動かす。
なぜ高尾君に電話したのかはわかりませんが、そんなこと考えもせずに僕は今の気持ちを言い続けました。
「僕、は、やってません。…でも、誰も、信、じてくれなく、て……」
──もうマジで、学校来ないでくれる?迷惑してんだわ、俺ら全員。
「ぼ、僕はっ………め、いわく…ですか?」
『…テっちゃん?何があったの?』
「クラスの皆さんも、キセキの皆さんも、……黄瀬、君も…。僕にはもう、誰もいない。……いなくなってしまいました。」
そう。
僕にはもうなくなってしまったのです。
あの楽しかった日々も、
あのずっと続けばいいと思った日々も、
あの、幸せ過ぎた日々も。
震える両手を広げて見ても、この両手にはもうなにも残っていない。
──全ては、
「あの人の……せいで……?」
心の中に、悲しみではない何かが湧き上がってきます。
これは、一体なんでしょうか。
頭の中がどんどん冷静になっていって、口から言葉が知らずに出てきます。
「そう、ですよ。楽しかったのに…幸せだったのに…あの人が……くる、まで……」
『………テっちゃん?』
──そうだ。あの人なんて、惟葉さんなんて……
「いなく、なればいいんですよ。」
電話の向こうで、高尾君が息を飲んだのが伝わってきます。そして、今までよりはるかに低い声で、言う。まるで、怒っているかのようです。
『……じゃあ、どうするの?』
「……え?」
『なら、どうしようっていうのって聞いてんの。その子に復讐でもするの?それとも怒りのあまり殺しちゃうの?そんなこと考えてるとしたら、
テっちゃん、その子とおんなじだよ。』
「………あ、ああ、あああ。」
冷静だと思っていた頭から、どんどん血の気が失せていきます。
──ち、がう……
「っあ…ちが……ちが、くて………僕は、ただ……」
違う。
復讐したいわけじゃない。
むしろ、誰も傷つけたくない。
僕は、
僕はただ、
「あの、頃に………」
──戻りたい。ただそれだけ。
ただそれだけのことなのに、とても遠い。
僕が手を伸ばすくらいじゃあ、全然届かないくらい。
だから恨んでしまった。
憎みかけてしまった。
そんなの、違うのに。
「いや…です………!」
そう告げると、電話の向こう側から大きなため息と少しの笑い声が聞こえました。
『まったくも〜wこれだからテっちゃんは放っとけないんだよねww…で?今どこ?迎えにいくから。』
それだけの言葉なのに、すごく安心しました。辺りを見回して、場所を伝えると、十分後くらいに、高尾君が来ました。
僕はあまりに大きなものを失いすぎたのかもしれません。
それでも、ただなくなっただけではありませんでした。
ちゃんと、残ってるものもある。
それは、小さくても、確かな希望になっていたのでした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
19 / 146