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矛盾の心
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キーンコーンカーンコーン……
──な、なんとか間に合いました……
HRの始まりを知らせるチャイムと同時に、僕は何とか席につきました。
予想はできたことですが、僕の机はとても使えるような状況ではなく、わざわざ使われていない机を探し、持ってきている間に、非情にもチャイムがなり始めたというわけです。
──というか、手がこみ過ぎでしょう……!
息を切らせながら見た先には、ついこの間まで僕が使用していた机。
落書きはもちろん、中には画鋲やペンキがたくさん。ネジはギリギリまで緩めてあり、先ほど触っただけで机の足が取れました。更に、全体的にのりか何かが塗ってあり、そのせいで僕の手はただいまベトベトです。ついでに言うと、洗うひまがなかったのでそのまま持ってきた机の方も僕が触ったところだけ少しベトベトしています。
あと、もう一つ言いたいことがありました。
クラスの皆さんが、まだ僕が来ていることに気づいていないんです。
ドアを開け、きちんと「おはようございます」と言っても無視をされました。(いつものことですが。)
机を壊してしまった時も、ネジの緩めすぎで僕が来る前に勝手に壊れてしまったと勘違いをされました。
新しく用意したこの机と、その机に座っている僕には、まだ誰も気づいていません。
──なんだか、拍子抜け……いえ、とりあえずは何もなくてよかったですが、これだけでは終わらないはずです。気を緩めないようにしなくては。
そう思い直し、膝に置いた手を握りしめます。そうしていると、音を立ててドアが開き、先生か入ってきました。
「HR始めるぞ〜。係、号令〜。」
「きりーつ、れーい。ちゃくせーき。」
「出席取るぞ〜。」
ガタガタとみんなが席に座り、先生が出席を取り始めます。ここだけ見れば、とても平和な日常です。
「──黒子。」
「センセー、黒子クンはお休み……」
「いますよ。」
──いやいやいや、何言ってるんですか。
「……えっ、」
突如としてざわつくクラス。それはまぁ、いないと思っていたクラスメイトがいつの間にか席に座っていて、しかも新しい机まで用意していたらびっくりするでしょう。
しかし、当然の如くびっくりだけでは済みませんでした。
「ハァ?なんで来てんの?」
「神経腐ってんじゃね?まだ懲りてねぇとか。」
「やだ、最悪〜。私、席ちょっと近いんだけど。」
僕に聞こえるくらいの声で口々に言い出す皆さん。もう傷つきはしませんが、自然と握る手に力が入ります。寂しいと感じるのは、きっと気のせいでしょう。
──耐えるんです、HRが終わるまでの辛抱ですから……!
「HR終わるぞ〜」
「……きりーつ、れーい。」
号令をした瞬間に、ミスディレクションをしながら教室を出ます。教室の中からは、「くそ、どこ行ったんだよ!」「逃げたのか?ちくしょう」と言った声が次々と聞こえてきます。あとは、チャイムがなるまでトイレなどに隠れていれば大丈夫でしょう。
──そうと決まったら、急いでトイレに……
トイレへ歩き始めた、その時。廊下の先に、人混みに混じりながらでもこちらを見つめる瞳と目が合いました。
「き、せ……君。」
最後にあった時より、随分と顔色が悪いです。体調が優れていないのでしょうか。食事は、ちゃんととっているのでしょうか。そんなことを考えていると、ツカツカと黄瀬君がこちらに歩いてきました。
──あ、逃げ…ない、と。
そう思っているのに、体がいっこうに動きません。そうしているうちに、いつの間にか目の前に立つ黄瀬君。
会いたくなかったと言えば嘘になります。 ずっと会いたかったです。けど、それが恐くて仕方ありませんでした。
恐い。裏切られるのが。
恐い。その口で蔑まれるのが。
恐い。離れていってしまうのが。
恐い。もう愛されていないと改めて気づくのは。
でも、
それでも。
会いたかった。
でも、そう思ってしまうほどに
僕は貴方が好きなんです。
黄瀬君……
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