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味方
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ゆらゆらと揺れる地面。その地面はほんのり暖かく、とく、とく、と小さな鼓動が聞こえてきていました。
──あれ、もしかしてこれ、誰かの背中でしょうか…?
目を覚ましかけた意識でそう思っても、そのまま目覚めることはなく、深い海に沈んでいくように、僕は夢へと堕ちていきました。
………
『………だよ!お前……たら……許さねぇ…!……たか…!?』
『……いよ………さいなぁ…』
何処かから聞こえてくる声。怒っているような声は、高尾君でしょうか。もう片方の、だるそうな声は…まるで……
「……紫、原君…?」
呟きと共に目を開けると、視界に今にも泣きそうな高尾君が入りました。
──なんか…デジャヴですね……
「……中学生にもなって泣くなんて、みっともないですよ。」
完全に目の覚めた状態でそう言うとさらに泣きそうになる高尾君。しまいには、ぼくの寝ているベッドにふせて泣き出しました。
そこでやっと、ここがベッドの上で、ぼくは誰かによって誰かの家に寝かせてもらっていると気づき、さらにもう少ししてから自分が意識を失ったことを思い出しました。
「えっと……高尾君。ここは一体どこでしょうか。」
「俺ん家だよ〜。」
声のした方を見た僕は、思わず動きを止め、息をするのも忘れました。
「紫原、君…。」
僕の視界の先には、ポテトチップスを食べながら返事をする紫原君がいました。この状況からすると、ここは彼の家なのでしょう。
──しまった……!
思わずそう思いながら布団を握りしめていると、それに気づいた紫原君が、新しいポテトチップスの袋を出しながら言いました。
「そんなに布団を握りしめなくても、赤ちんの所には連れて行かないし、黒ちんのことも言ったりしないし〜。」
「え……」
──彼は、今何て?
「赤司君達の所には連れて行かない」?
「僕のことも言ったりしない」?
「…う、嘘です……!」
そう言ってからハッとしました。高尾君がこの部屋にいるのは何故?助けに来てくれたのでしょうか。それとも……
嫌な想像ばかりが頭に浮かび、その度に手が震え、指先の感覚がなくなっていくのが分かりました。
──どうしましょう、このままでは……
「はぁ〜、も〜めんどくさいなぁ。」
そう考えてる時に、突然そう言われたものだから、思わずビクッとしてしまいました。恐る恐る彼を見ると、困ったような、面倒くさいような、そんな顔をしていました。
「なんで黒ちんはさ、俺が赤ちん達に言うと思ってんの?」
「え、だって、それは……」
──バスケ部の皆さんは惟葉さんのことを信じていて、それで僕を……
そう、僕の味方は高尾君だけ。学校も先生も、信じてはいけません。
それに紫原君は、あの時赤司君達と一緒に惟葉さんの所へ……
その情景を思い出し、グッと息を止めていると、やっと泣き止んだ高尾君がそっと僕の手を掴みました。
「大丈夫だよ、テっちゃん。コイツは敵じゃないよ。」
少し腫れた目で精一杯笑う高尾君。彼の口から語られるその言葉を、僕も信じたいと思いました。
でも。
当たり前のようについて来る恐怖が、それに反比例するようになくなっていく勇気が、僕が踏み出そうとしている最後の一歩を足止めしようとします。
──やっぱり、僕は──
そう思った時。
「黒ちん。黄瀬ちんはね……」
彼の口から、最愛の人の名前が聞こえた。
「キセキの中で、黄瀬ちんだけ迷ってる。いつも犬っころみたいに笑ってる黄瀬ちんが、黒ちんのことを考えながらいつも困った顔してるよ。……自分の選んだ選択を後悔してるみたいに。」
そう。それは知っています。彼が迷っていることも、彼が僕を信じきれていないことも。だって僕も、同じだから。
「俺は、赤ちんを裏切る事はできない。でも、赤ちんに、黄瀬ちんに、本当のことを知って欲しいと思う。……俺は、黒ちんに協力するよ。」
思わず、涙が出ました。
ずっと、恐くて踏み出せなかった一歩。
一人では、暗く、寂しすぎた長い道。
その先に何があるかすらもわからなくて、
ずっと、歩き出すことはできませんでした。
でも、それでも、僕は変わりたい。
僕を支えてくれる人とともに。
僕はもう一人ではないから。
「黒ちん……」
ずっと溜まっていた不安達の塊が、溶けていくようでした。
頭の中に浮かぶ黄瀬君の純粋な笑顔に会いたいと、この時初めて思えました。
会いたい。
今、誰よりも君に会いたい。
会って、もう一度伝えたいんです。
── そ れ で も 、 愛 し て る ──と。
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