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悪意
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紫原君は相当のショックがあるらしく、「頭冷やさなきゃだから」と一足早く帰っていきました。高尾君は僕の頭の傷を手当てしてくれるようで、一緒に家へ向かいました。
「頭の傷、本当に大丈夫?」
「これくらい大丈夫ですよ。」
「赤司がいきなり来るとか…びっくりだよな。」
「そうですね…」
「……紫原、意外だったな。」
「……そうですね……」
本当に意外だった。紫原君が赤司君の敵になるのも、赤司君を殴ったのも。
しかし、もっと驚いたのは赤司君を殴った紫原君から、とめどない赤司君への愛を感じたこと。
おそらく、紫原君は赤司君に好きだと伝えていません。
赤司君も、紫原君のことが好きでしょうに、それに気づいていません。
お互い好きだと伝えていないのに、誰より近くにい続けたその関係を、僕は壊してしまった。
「僕のせいです。」
そう言おうとした時、ポケットの中で携帯が震えました。取り出してみると、覚えのない番号からの電話。
「高尾君、ちょっと待ってください……はい、黒子です。」
『あは、黒子君?』
ぶわっと、心の中で激しい感情が沸き上がりました。歩いていた足を止め、電話だけに意識をとられる。
なぜこの番号を知っているのかとか、なぜ電話などをしてきたのかなどを聞く余裕はありませんでした。ただただ早く電話を切りたい、でも、動揺は見せたくない。
「……何の用ですか。」
『んーとねぇ、さっき赤司君がそっち行ったからぁ、もうやられたのかなぁと思ってぇ。ボロボロになった声を聞きたかったのぉ。』
ああ、黒い黒い感情が止まらない。電話越しに高笑いする彼女を、今すぐにでもぐちゃぐちゃにしたい。
「要件はそれだけですか。」
『んー、あとねぇ、今日学校終わったら来て欲しいんだけどぉ。あ、もちろん一人でねぇ?お願いじゃなくてぇ、命令ね。』
「いいですね。ちょうど僕も会いたいと思っていましたから。」
『やだぁ、こわぁーい笑笑
じゃーね。』
この時の僕は、一体どんな顔をしていたのでしょうか。心の中は真っ黒だったので、きっととんでもなく良くない顔でしょう。
「テッちゃん……?誰から……?」
「……ただの友人からですよ。それより、もう家に着きますよ。」
高尾君には話さない方がいい。いや、話したくない。
幻滅されたくない。
こんな、醜い感情の僕を知って。
少し気まずくなった空気の中、それでも高尾君は手当をしてくれました。そのことに感謝し、お礼も言ってから高尾君を玄関まで送り、自分の部屋へと戻りました。
──さて、着替えなくては。
惟葉さんが一人でないことと、暴行を受けることを見越して、フード付きの動きやすい服を。そして、随分前に両親が買ってくれたウォークマン兼ボイスレコーダーをポケットに忍ばせ、バスケットボールと財布をもって家を出ました。
僕たちはまだ朝のうちに早退したので、学校に行くにはまだ時間が余っています。バスケットボールはその時間潰しのために、そして、その前に僕は大型のショッピングセンターへと足を運びました。
そこで、すぐに落ちる黒のカラースプレーと、シャーペンを二本買いました。
その後、近くのバスケコート付きの公園へ移動し、カラースプレーで髪を黒に。隅から隅まで黒になったのを確認して、僕はゆっくりとその場に座りました。
僕がこれからやろうとしていることは、僕が今まで避け続けていたこと。〝僕〟のままでやってしまえば、気が変わってしまうかもしれない。
──僕は卑怯だ。こんな時だけ縋るなんて。でも、やらないと前には進めない。……少しの間、名前を借りますね………
……クロさん。
「僕はクロ、僕はクロ、僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ僕はクロ」
そう、〝俺〟はクロ。
口を歪ませ、ボールを取り出した。その場所から無造作にゴールへとボールを投げれば、そのボールは綺麗な軌道をえがいてゴールへと吸い込まれていった。
きっと今の俺は、誰が見ても黒子だとはわからない。俺はクロ。
実際にそうでなくても、人は思い込むだけでとてつもない変貌をとげることがある。それを利用して、俺は〝俺〟になる。
青峰君すらも超えてしまうような型のないシュートを投げ続け、最後にダンク。いくら身長が足りなくても、ジャンプ力だけで解決してしまう。
「……はぁ、疲れた。マジバ行こ。」
その後、マジバのバニラシェイク三つを持ち再びバスケコートへ。シュートしてはシェイクを飲みを繰り返し、三つ目が空になった頃、ようやく時間になった。
──そろそろ行くか。
具体的な場所は全く言われなかったので、ひとまず学校へ行くことに。まだ惟葉さんに会ってもいないのに、興奮で笑みが止まらない。
「誰かいるんだったら、出来るだけ強そうな人がいいなぁ。あはは。」
ポツポツと下校中の生徒がいる中、俺は学校へと歩き出した。
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