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悪意3
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一歩。
それだけで、彼女は面白いほどに肩を震わせる。
これっぽっちもないと思っていた加虐心をくすぐられる。どうしよう。顔がにやける。
持ってきていたシャーペンを取り出して、惟葉さんに見せる。
「ツボっていろんな種類があるんですよ。皆さんが知っているのは大抵リラックス効果があるものですけど、拷問にも使われる痛覚を刺激するツボもあるらしいんですよ。傷もできないし、女性にはぴったりですよね。そう思って、ちゃんと調べてきたんですよ。」
惟葉さんの目から涙がこぼれる。これでもかというほど怯える姿には、もうあの傲慢な態度はない。
面白くてもう一歩進もうとした時、後ろから数人の足音が聞こえた。誰だ?と思ったのもつかの間、先程惟葉さんが誰かに電話していたのを思い出す。
振り向くと、どこにでもいるチンピラのような人が四人。
──弱そっ。
でも、邪魔だな……
とりあえず睨んで、威嚇してみる。意図して睨んだことなんてほとんどないので、全身に力が入った。シャーペンを握る手にも力が入る。すると、僕の目を見たのかそれとも握りしめられたシャーペンを見たのか、ピタリとチンピラの足は止まった。
──僕をレイプした人を倒した時も、クラスメートを殴った時も、普通じゃない精神状態でした。しかし今は、(とりあえず普通ではないけど)どちらかといえば落ち着いている…
……どうしよう。なんか緊張する。
そのままどちらも動かない、いわゆる緊張状態が続く。
そして、最初に動いたのは、僕だった。
走ってある程度近づいてから、壁を足場にしてジャンプ。突き出した足を一番前にいた人の顔にぶつけると、気持ち悪い声を出してその人は倒れた。
この現実離れした技は、実は以前なんとなく読んだパルクール(走る、跳ぶ、登るの動きで体を鍛えるスポーツ)の本に書かれていたもの。つまり、運動神経とセンスがあればできる技。
これでひるむと思ったら、喧嘩慣れしていたのか、一人が既にこちらに向かって走り出していた。
手にはナイフ。
よけようにも、間に合わない。
思わず握り締めた手の中に、シャーペンの存在を思い出した。
反射的に、ほぼ無意識にシャーペンを相手の太ももに刺したのと、頬を切られたのは同時だった。
「あ?ぁっ……いがあああぁぁあぁああぁぁぁ……」
「あ、すいません。」
シャーペンを抜き取ると、かなりの血が手についた。それをそっと相手の服で拭いて、次の敵に。
もう緊張はしていなかった。早く終わらせて、惟葉さんに自白させないと。
そのあとはすぐに終わった。一人は蹴りで壁に打ちつけ、一人はこめかみを一発。それですぐに気絶した。
振り向くと、惟葉さんは呆然とした顔でこちらを見ていた。しきりに「うそ。嘘よ嘘……」と呟いている。
ふと、彼女が手に持っていた携帯のディスプレイが、〝たった今〟消えたのに気づきました。
「また誰かに連絡していたんですか?……まあ、なんでもいいですけど。」
一歩一歩近づきながら、ポケットの中のボイスレコーダーを手に取りオンにした。
「さっきのことをもう一度聞きますね。ツボ押しは、最終手段ですので、きちんと答えてくれれば……っ」
痛くはありませんよ。といおうとした時、惟葉さんが携帯を投げつけてきた。
「嘘よ!嘘嘘嘘!ありえないのよぉ!なんなのよアンタ!どうせなんの役にも立たないんだから、大人しくやられてなさいよぉ!私は一番なの!何があっても!アンタは邪魔なのよぉ!」
「………やめた。」
軽蔑と、怒りと、冷え冷えとした頭。
惟葉さんから話を聞き出すということなど、もう頭にはなかった。
「その狂いまくった頭、僕が直してあげますよ。」
もう、泣こうが喚こうが、知ったことではない。躊躇なく近づいて、惟葉さんの目の前まで近づいた。
シャーペンを振り上げる。
彼女が叫ぶ。
僕は笑って、
その後すぐに笑みは消えた。
後ろから声がする。
懐かしい声。
今、一番会いたくない人の声。
恐る恐る振り向くと、そこにはやはり彼がいた。
よほど急いでいたのか、髪も服も乱れている。惟葉さんが先程呼んでいたのは、彼だったのでしょうか。
「あは、ははは、はは、は……」
喉の奥から笑いがこぼれた。
どうしたらいいのかがわからなくて、笑い続ける。
なんで。
どうして。
……いやだ。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは、ははは、はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…………
僕を見ないで……
黄瀬君………」
君にだけは、見られたくなかった。
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