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黄瀬side
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することなんて特にないけど、俺はなんとなく街をぶらぶらしていた。
今日は仕事の日だからと早退したはずなのに、結局仕事は休んでしまった。
初めてのことだった。
正直自分でも驚いている。バスケを休んでまで行く仕事だから、ずっと休むことなく続けてきたのに。
最近ずっとこの調子だ。力が入らないというか、なんか寂しいというか。
「……黒子っち、今何してるんスかね…」
そう、原因はわかっている。黒子っちだ。
会いたくて会いたくてたまらない。でも、会ったところでどうすればいいかわからない。
学校でも会う機会なんてなかった。
ハァ〜と長いため息をついていると、ファンらしき女の子たちが近寄ってきた。
「あ、あの……モデルの黄瀬涼太ですよねっ!あたし達、ファンなんです!」
「ああ、……ありがとう、嬉しいっス。」
彼女たちが大袈裟に騒いだので、野次馬たちが集まってきた。至る所から「えっ?黄瀬涼太!?」という声が聞こえる。
有名なのは嬉しいけど、こういう気分の時は酷く疲れる。適当な用事を作って俺はその場から逃げた。
しばらく走って、追いかけてこないのを見てからスピードを落とした。このまま歩いていたらまたさっきみたいなことになるけど、家に帰る気も起きなかった。
「………黒子っち……」
そもそも黒子っちは本当に惟葉っちに告白して傷つけたのだろうか。現場を見ていたのは黒子っちと惟葉っちだけだし、黒子っちはちゃんと否定していたじゃないか。
そして、俺は一度だけ見たんだ。歪んだ笑顔で黒子っちを見てる惟葉っちを。
もし黒子っちがやっていなかったら、信じなかったのは俺たちの方だ。裏切ったのも、俺たちの方。
胸の奥の方がキュッと痛んだ。
(やっぱりちゃんと聞こう。そして黒子っち信じよう。)
そう決心して、携帯を取り出した。
すると、まるでタイミングを見計らったようにメールが届いた。送り主は、惟葉っち。
内容はこうだった。
『助けて!
黒子君が急に襲ってきたの!
今、路地の奥に追い詰められてる!
怖い、助けて!』
メールには、地図も添付されていた。
決心が、早くも揺らぎかける。
(くそっ、落ち着け俺!とりあえず惟葉っちのところに行かないと!)
幸い場所は少し近い。携帯を握りしめて、全力で走った。
黒子っち、
黒子っち、
黒子っち。
待ってて。
今度こそ信じるから。
路地の中を何度も曲がって、走って、進み続けた。
奥に進むにつれて、どんどんと光が射さなくなっていく。まだ昼のはずなのに、辺りは夕方のように暗くなった。すぐに目が慣れたけど、それでも暗い。
この道で合っているのか分からなくなってきたとき、惟葉っちの声が聞こえた。金切り声で何かを叫んでいるけど、何を言っているのかは良く分からない。でも、かなり近かった。
金切り声が消えると、続いて叫び声が聞こえた。それは、すぐ目の前から聞こえる。
暗闇に、黒い塊が二つ。一つは座り込んでいて、一つは立って何かを振り上げている。
立っている方の後ろ姿には、すごく見覚えがあった。だってあれは、俺の大好きな………
「黒子、っち……?」
壊れかけの人形のように振り返る顔は、やはり黒子っちだった。
今にも泣き出しそうな顔でこちらを見る黒子っちは、こないだ会った時と随分変わっていた。
また随分と痩せたんじゃないか。
黒い髪は染めたのだろうか。
その頬の傷はどうしたのだろうか。
聞きたいことが沢山ありすぎて、でもそれより黒子っちに触れたくて。小さく震える体は、抱きしめなければ今にも崩れそうで、俺は一歩一歩、近づいた。
その時、黒子っちが笑い出した。
最初は小さかったその笑い声は、だんだんと大きくなっていく。
「あはははははははははははははははははははははははははははははははは、ははは、はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…………」
笑って、
笑って。
そのままそこに泣き崩れた。
「僕を見ないで……
黄瀬君………」
今までで一番、彼を愛おしいと思った。
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