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見た目で言ってしまえば、俺の中でバスケに一番不誠実なのは惟葉という女子マネージャーだ。
これはあくまで見た目の話なのだよ。しかし、見た目より性格が悪いということはあっても、その逆は極めて少ない。
今までにも男を漁るのが目的で入部した女は多い。転校してきて間もないというこの女も、おそらくそうだろう。
これが、俺の中の惟葉に対する第一印象だった。
俗にギャルと呼ばれる知能の低い者が好んで使用する派手な髪の色と盛り具合。
マネージャーどころか運動系の部活には絶対と言っていいほど適していないメイク。
短すぎるスカートに、着崩した制服。
完全に意図して使っているだろう上目遣い。
そして、人に媚びるような口調。
どれも、俺の苦手とする女の装備だった。
キセキの世代と呼ばれるだけで、俺たちの扱いは異常なほど特別になる。
この惟葉という女も、そうだろうと思っていた。
しかし、それは違ったのだよ。
惟葉は、誰に対しても分け隔てない対応をした。
一軍や二軍なども関係無い。
困っているなら相談にのる。
疲れているならタオルとドリンクをすかさず差し出す。
一人一人に適した練習量を顧問の先生に報告し、メニューを作る。
他のマネージャーの補助もこなす。
人は見かけではないという言葉の象徴のような人物だった。
俺いつの間にか惟葉を見直し、気づけばふと探していたりもするようになった。
そんなある日、練習の合間の休憩時間に珍しく惟葉のいない日があった。
しかし、惟葉が愛用している筆箱やノートが体育館の端に置かれていた。
なんとなく。
本当になんとなく気になって、少し探すだけだと外に出た。
その瞬間だった。
惟葉の叫び声が聞こえたのは。
声の行方はおそらく体育館裏。
虫でも見つけたのだろうか。
それにしても大きな叫び声だったのだよ。
そう思いながら向かった体育館裏で見たのは、まるで予想していなかった光景。
赤くなったワイシャツを抑え座り込む惟葉と、力なく立つ黒子。
地面に落ちたカッターと思われる刃物。
信じるのは無理でも、状況を理解することはできた。
まさか。そんな馬鹿な。
しかし、現に惟葉は怪我をしているのだよ。
理由は?動機は?黒子は黄瀬と付き合っていたはずでは?
今考えれば、俺の頭脳は実に懸命に働いたと思う。
そんな頭脳の働きより、俺の体が反応するのが早かっただけ。
思えば、黒子の方が長く共に居たし、惟葉が入部してきた直後なら、俺は間違いなく黒子側にいただろう。
なら何故今は違う?
俺はその答えに、この状況を優先すべきだと言い訳をして蓋をした。
一ヶ月で惟葉は絶大な信頼を得たのだろう。その証拠に、次々とやってくるバスケ部部員は全員惟葉の方へと来た。
ほとんどは本気で怪我を心配している奴らばかりだったが、それを口実に近づこうとする奴らも見られたので、俺は惟葉から離れなかった。
黒子の方には、誰もいない。
最後の方にやってきたキセキの連中も、結局誰一人として黒子側にはつかなかった。黒子の恋人の、黄瀬さえも。
ざまをみろ、と内心で思った。ちくりと痛んだ胸になど、気にする暇はなかった。
それからの事の進みはとても早かった。
赤司がいたからということもある。しかし、黒子がさしたる抵抗を見せなかったのもあった。
黒子は強制退部。惟葉の意志によりなんとか退学は免れたものの、これからどうなるかなど火を見るより明らかだった。
始まったのは、陰湿でもなんでもない、ただのいじめ。
他と違うところは、学校全体が黒子の敵ということと、教師も無言の肯定をしているということ。
せいせいするほど遠慮のないいじめだった。惟葉のことなどどうでもいい連中も、自らのストレス発散のために惟葉を使って笑っていた。
あの日以来、俺はできるだけ惟葉の傍にいるようになった。建前は、惟葉が放っておけないからにしておいた。
もっと別の感情があるのは既に知っている。
それでも、惟葉のことを考えたら伝えるわけにはいかなかった。
だから、伝えられない代わりに、どんな時も守ろうと決めた。
本当の笑顔で笑わない惟葉が、いつか笑えるように。
な の に 。
俺は守れなかった。
公園で、惟葉は一人泣いていた。
雨の中、傘もささずに。
俺は偶然通りかかっただけだった。
そう、偶然。
通りかからなかったら、気づきもしなかった。
急いで惟葉に駆け寄って事情を聞いても、惟葉は泣くばかりだった。
我ながら、自分には腹が立つ。
何が守ってやるだ。
何がいつか笑えるようにだ。
惟葉は、一人で抱えているじゃないか。
結局俺も、黒子を口実に近づいていただけじゃないか。
「俺はっ、最低なのだよ……!」
黒子を探し走りながら、一言呟いた。
その一言は、誰が拾ってくれるでもなく、雨に吸われて消えた。
そして、今。
黒子は意味不明な発言を残して去っていった。
惟葉が俺を好き、とか。
惟葉は、俯いて肩を震わせている。
俺は、未だに信じられていない。
何を?
全部を。
黒子が本当は裏切っていないということ。
惟葉が自ら嵌めたということ。
なら何故黒子は弁解しない?
何故惟葉は言わなかった?
何故俺たちは、黒子を信じなかった?
答えは随分と簡単だった。
俺が、何一つ知ろうとしなかったから。
俺は、結局最後まで蚊帳の外だったらしい。
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