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ある女子side
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「ねぇ、あの人ちょっとカッコよくない?」
友人の言葉にそちらを向くと、ガラス越しに確かに少しカッコいい男子が歩いていた。
年はおそらく自分と同じ中学生か高校生くらいだろうか、人懐っこそうな顔で携帯をしまっていた。
ふーん、どぅーでもいいなぁ…
ファーストフード店の中でズゾーッと残りのジュースを飲みながら、そんなことを思った。
「ねえ、ちょっと声かけようよ〜。」
「え〜っ?」
乗り気はしない。しかし、先程から続く友人の〝黒子君について〟の話はもう聞きたくないと思う。聞いていていい気分にはならないし、話が長いうえに一方的すぎる。
ここで断ったら、また話が始まるのだろうか。それは、できる限り拒否したい。
黒子君というのは、今学校で話題になっている男子のことだ。この間問題を起こしてから、いじめのターゲットにされたり友人に離れられたりと随分と酷い現状を送っているらしい。
私はその問題に何の関わりもなかったが、この友人はあったらしく、先程からずっと悪口を聞かされていた。それはもう、ずぅっと。
「……そだね。今日ちょうど暇だし、どっか誘ってみる?」
とにかく最悪の状況を避けるべく友人に賛同し、店を出た。
いつもより少し早めに歩きながら、男子を追いかける。何故か周りに音符がつきそうなほど機嫌がいいその男子は、「花宮」「今吉」などの言葉を紡ぎながら歩いていく。男子の歩幅なので、なかなか追いつけない。
「ねぇ、やっぱやめよーよ。なんかあの子めっちゃ速いし……って、あれ?」
隣の友人に声をかけたつもりが、隣には誰もいなかった。急いで周りを見渡すと、随分先に友人の頭が見えた。
そこで、いつもより人が多いことに気づく。今がちょうどお昼時だからだろうか、スーツ姿の人が大半を占めていた。
見えたり隠れたりする友人より、一緒に追いかけている男子を見ていた方がいいと判断し、必死に男子を追いかける。そのうちに、少しずつ人が少なくなって、周りを見渡せるくらいになった。
って、あれ?
人が少なくなったのに、友人が見つからない。もしかして、もう諦めて帰ったのだろうか。
一応と見た携帯には、やはり友人から連絡が来ていた。どうやら、途中で二人とも見失ったから先に帰っているということだった。ついでに、男子のアドレスも聞いてきてと付け足されている。
「も〜……」
仕方ない、と男子を追いかけ始める。人も少ないので、すぐに追いついた。
「あの、」
「ん〜?どちら様かな?なになに?」
ニッコリとした返事に思わずホッとする。どうやら、顔と比例した性格らしい。
「カッコよくて、思わず声かけちゃったんですけど、よかったら、アドレス教えてくれませんか?」
「わお、もしかしての逆ナン?w今ちょっと気分いいから、特別ー♡」
アドレスを交換して、相手の名前が高尾和成と知る。年も同い年。
「テっちゃんに自慢しよーっとww」
「テっちゃん?」
「ん、友だちー。黒子テツヤってゆーの。」
え、と言葉かもわからない呟きが漏れる。だって黒子テツヤは、私の学校にいるから。
もしかしたら、違う黒子テツヤなのかもしれない。ただの聞き違いかも。でも、もし本当なら。
仲良くしてあげて欲しい。
随分と忘れてたけど、小さい頃は黒子君とよく遊んだ。影が薄いから、かくれんぼはやらないようにしてたんだっけ。
昔の記憶がふっと蘇ってきて、気がついたら口から言葉が出ていた。
「黒子君、裏切らないであげて。きっと今、ボロボロだから。」
今はもう何の接点もないのに、何故かずっと気になってた。みんなと違って、嫌いにもならなかった。
それでも、一歩は踏み出せなかった。理由なんて、考えたこともなかった。
パパッと事情を話すと、高尾君は笑顔で頷いてくれた。
「もちろん。約束できるよ。帝光中に君みたいな子がいてくれてよかった!w」
じゃーねー、と別れたあと、少しの間私は携帯を持ちながら高尾君の後ろ姿を見ていた。特に特別な意味はないけど、ただ、本当になんとなく。
すると、高尾君の後ろを黒色の車がゆっくりと追いかけているのに気づいた。窓すらも真っ黒な、いかにも怪しい車。
「高尾君!!」
とっさにカメラ機能で写真を撮った。いつも何でもかんでも撮る癖を、この時だけは感謝した。
私の声に高尾君が振り返るのと、車から数人の男が出てくるのはほぼ同時だった。そのまま、一瞬で高尾君は車の中に消えていく。
と、いまさっき登録したばかりの高尾君の携帯から電話がかかってきた。夢中でとると、
『頼む!テっちゃんに知らせて!明日の朝!前回と同じ…ザザッ…奴ら……』
ブツッ、と無情な音。携帯からはもう何も聞こえない。
一瞬の出来事すぎて、ただでさえ少ない周りの人は、ほとんど気づいていない。気づいても、見ないふりで去っていく。
怖い。そう思った。これが私が黒子君にやってたことだって、気づく余裕もなかった。
「どうしよう、どうしよう…!…あ、黒子君……」
『頼む!テっちゃんに知らせて!明日の朝!前回と同じ…ザザッ…奴ら……』
そうだ。黒子君に伝えないと。
私には、それしかできない。
でも、黒子君の住所も電話番号も、何一つ知らない。
それでも、動かなきゃ。
私は急いで、今来た道を戻った。
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