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ある女子side
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いない。
いない。
学校にも、どこにも。
どれだけ走り回っても、黒子君は見当たらない。
もう家に帰ってしまったのだろうか。そしたら、もう私にはどうもできない。
そもそも私は、黒子君の行きそうな場所も、好きな場所も、何一つ知らないのだ。
どうすれば、どうすればいいんだろう。
「そんなのっ……わかんないよぉ…」
疲れきって走る足が止まった。元々運動とかもこれっぽっちも好きじゃない私が、運動能力に優れているわけもない。
疲れきったのと、自分が何も出来ない事に涙が出た。
あの時、高尾君の近くに私じゃない人がいれば。
少なくとも、私より何かできたんじゃないだろうか。
そんなこと思っても何も変わらなけど、そう思わずにはいられなかった。
「とりあえず、探さなきゃ。」
黒子君じゃなくても、黒子君と仲のいい人。
でも、それって誰?
キセキの人たち?でもあの人たちは、先陣切って黒子君をいじめていた。
ほかに学校で仲良くしてる人もいない。
どうすれば。どうすれば。
拭いても拭いても流れてくる涙を必死に拭って、それでもまだ溢れてくるから諦めてまた走り出した。
走れば走るほど頭がぐちゃぐちゃになっていく。
ぐちゃぐちゃになっていくのに、どこか冷静で。
その頭が、弾けるように一つの答えを出したのはすぐだった。
あ。
「あ!」
思わず叫んだ先には、コンビニから出る長身の男子。
むら、さきばら君。
そう、そうだ。
確か、黒子君は紫原君とだけは仲が良かった。
その思いだけを頼りに、紫原君のところへ走った。
「…っは、紫原君!!」
私を見た紫原君は、長身の男子に似合わないような首を傾げる仕草をした。まるで頭にクエスチョンマークを浮かばせながら「誰?」と言っているように見える。
まぁ、それもそうだ。話したことも気にしたこともお互い無いのだから。
それでも、そんなことには構ってられない。
近くまで走って、紫原君まであと1メートルというところで止まる。
そこで泣いてることを思い出し、ハッとして涙を拭ってから紫原君の目を見る。
「紫原君、大事な話があるの。黒子君、どこにいるか知らない?」
「黒ちんの場所は知らないし、知ってても君が誰だかわかんないから教えない。」
キッと睨まれ、少し怖気づく。でも、ここで引くのは絶対にダメだと思う。
「お願い。本当にお願い!もしダメなら電話番号だけでも教えて。紫原君の見てる前で話すから!」
私の叫びに少し眉を寄せた紫原君は、一つため息をついてスマホを取り出してくれた。
番号教えてくれるのかな、と思ったら、紫原君の携帯を渡された。画面には、「黒ちん」の文字。
なるほどね。
スマホを受け取って耳にあてる。何度かのコールのあと、黒子君が出た。
『もしもし?紫原君?』
すうっと息を吸う。ポロリと最後の涙の粒が流れた。
「……もしもし、黒子君?」
電話の向こうで息を飲む声が聞こえる。
『誰、ですか?』
「多分覚えてないと思うから、今は用件だけ言うね。高尾君、知ってるでしょ?」
多分電話の向こうでは、黒子君は混乱してるんだろう。
それでも、急がなきゃ。
『頼む!テっちゃんに知らせて!明日の朝!前回と同じ…ザザッ…奴ら……』
伝えなきゃ。
「黒い大きめの車、数人の男、高尾君は〝奴ら〟って呼んでた。心当たり、ない?」
ひゅ、という変な呼吸。心当たり、あるんだ。しかも、よくない感じ。
「あるっぽいね。その人たち、今日、高尾君を連れてっちゃったの。私、高尾君にそれを黒子君に伝えてって頼まれたの。」
その言葉に真っ先に反応したのは、意外にも紫原君だった。
「ちょ、それどーゆーこと!?高ちん誘拐されたの!?」
まさか紫原君が高尾君を知ってるとは思わなかったから、急なその反応にびっくりした。
だって、高校違うし。
知らないと思ったから電話借りたのに、だったら紫原君に伝えるだけでもよかったんだ。
『あの、詳しいことを教えてください。』
「ごめん、連れて行かれる直前に言われたから、あんまりわかんないんだけど、明日の朝、前回と同じ奴らって言ってた。多分、明日の朝にその人たちが来るってことじゃないかなって思うんだけど。」
そう言うと、紫原君が恐い顔をしてサッと青ざめた。その人たちのこと、紫原君も知ってるんだろうか。
私は何も知らない。だって、関わってこなかったんだから。
でも、これだけはわかる。
「高尾君、最後まで黒子君のことを心配してたの。最後まで黒子君のことを信じてたの。」
だから。
だから、お願い。
「助けてあげて。」
『「当たり前です/でしょ。」』
重なった黒子君と紫原君のその言葉に、私はどうしようもなく嬉しくなった。
ちょっと寂しいと思うのは、私が思っていいことじゃないから言わない。
「……じゃあ、私に出来ることはこれだけだから。」
電話を切ろうとしたその時。
『……その声、すごく昔によく遊んだ子に似ています。あの頃はとても楽しかったのを、よく覚えています。』
それを最後にツー、ツー、と無機質な音を出すスマホ。
今日、何度目かの涙が流れた。
必死で涙を拭きながらスマホを返す。
「ごめんね!ありがと。じゃあ、もう行くね!」
何を言ったらいいのか分からなくて戸惑ってる紫原君にそう伝えて、私は走ってそこを去った。
後ろから引き止めるような声が聞こえた気がしたけど聞こえないフリをして走り続けた。
よかった。
私が心配する必要なんてなかった。
よかった。
あの三人なら大丈夫だろう。
よかった。
これで、よかったんだ。
それでも涙が止まらないから、これは嬉し涙だって決めつけた。
よかった。
ふと立ち止まって、心の底から高尾君の無事を祈った。
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