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8-山田
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オーダーを送信してから1時間も経たないうちに、インターホンが押された。
初めはドが付くほど緊張していた俺も、メニューのレパートリーに驚愕したり簡単なようで難しい操作に苦戦したりするうちに徐々に落ち着きを取り戻していた。
「ほい、おまたせ食いしん坊」
「うるせぇ安藤も食うんだからコレくらいが丁度いいだろうが」
「はいはい」
ぽんぽんと食卓に並んでいく品は、どれもこれも温かさを保ったままで食欲をそそられる。
暇なら箸とグラス並べろって言ってくる父さんは居ないが、人の家となると黙ってセットが完了するのを腕を組んで待っている訳にもいかない。だからといってキッチンを物色する趣味はないので、結局輪ゴムを外して蓋を重ねる作業だけは手伝った。
「飲み物どーする?ビールとルイボスティーとプーアル茶…あとコーヒーがある」
「茶のこだわりどうなってんだよ」
「健康志向とお言い!」
そんなふざけた会話が出来る今が、どうしても夢心地だ。もう家にあがって随分経つのに、まだ目が覚めて自分のベッドの上だったらなんて考えてしまう。
「…ビール。飲んでみたい」
「まさかのお初ビールか。俺も飲んでいい?外出れんくなるけど」
「隣のコンビニくらいなら歩いて行けるだろ」
「確かに」
これは現実なんだ。嘘みたいだけど、俺は今初めて出来た好きな人の家にいて、一緒に注文した料理を食べようとしている。
揃ってお酒を飲むと言うことは、もう帰宅する手段は断たれるという事。安藤の家に…朝まで居続けられるって事。
改めて考え出すと、一度は治った鼓動も再び速度を増していく。脳みそなんて頭痛を疑うくらいに血が巡りまくってドクドクする。
あぁ、これやばいやつかもしれない。折角安藤と過ごせるのに、折角そばに居てくれるのに、ヒートでもない素面の自分さえコントロール出来ないようじゃ、いつまた擬似ヒートのような状態になるかわからない…。
「っしゃ、食うか」
「うん………あ、れ」
シルバーの缶を2つ持ってきた安藤が、いよいよ隣に腰を下ろすその時。ある事に気が付いた。
「安藤お前…今日、匂いしない。なんで?」
「あー、やっぱり?」
なんだコイツ。ニヤニヤしやがって気持ち悪りぃ。
α辞めたのかよ。それともまさか…俺が安藤を好きだと自覚した途端、無意識にフェロモンを放ってしまった事実があるという事はその逆もあるって事か?
だとしたら、安藤は俺の事をもう……。
「りゅうだけに薬飲ませんのはフェアじゃねーなって。俺も飲んでみたんだけど…αの抑制剤。結構効き目あんの?自分じゃよくわかんねー」
「え…俺の、ために?」
「他に誰がいんだよ」
なんでも無い顔をして、安藤は笑いながら袋に入った割り箸を取り出す。たまに忘れそうになる度に、何度も何度も思い出す。安藤はすごく優しいやつなんだって。
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