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「…おい。どうした、朝比奈。」
朝比奈が反応したのは、とある雑貨店の前だった。ショーウィンドウに“冬を記す”というメッセージと共に、幾つかの手帳が並べられている。手帳の他にミニチュアの家具とそれらで遊ぶクマのぬいぐるみがあった。手乗りサイズの真っ白なクマのぬいぐるみをショーウィンドウに両手をついて、覗き込むように顔を近づけた朝比奈が見て、感激の声を上げる。
「うわぁ~、かっわいい~…。」
クマのぬいぐるみは全部で五つあった。…いいなぁ、と小さく呟く朝比奈の背後に忍び寄る影があった。影…夜木は小さな相手を覆い隠すかの如くふんわりと背後から抱擁した。
「…朝比奈が一番好きなクマちゃんはどれ??」
「や、夜木…。」
お前また、と窘めようとした朝比奈だったが、呆れたらしく代わりに相手の質問に答えてやる。
「…あ~、あれ、かな。かわいいし、かっこいい。」
朝比奈が指さしたのは、ウィンクしているクマのぬいぐるみだった。夜木はにっこりと笑ってから、口を開く。
「俺に似ている。」
「…はァッ!?」
何言ってんのお前、と睨む朝比奈そっちのけで、相手は話を続ける。
「…とすると、朝比奈はあいつの隣の居眠りしている奴かな。お前、昼休みによく居眠りしているもんな~。」
「し…ッ、してねぇしっ!!」
朝比奈が声を荒げると、おっとという風に相手は彼から身体を離す。朝比奈には、二人の間にひんやりとした隙間風が吹いたような気がした。
「そこでちょっと待ってな。」
夜木は悪戯っぽく微笑んで、店の扉を大きく開けるとするんっと飛び込んでいってしまった。朝比奈が目を丸くしていると、また店内から勢いよく出てくる。
「ほらっ!!」
夜木が投げた物は、綺麗に弧を描いてすぽんっと相手の両手に収まった。
レースのリボンがかかった手乗りの白い小箱。朝比奈は瞬きを繰り返す。小箱の中身が何か、訊かなくても想像がつく。朝比奈はバッと顔を上げて、相手に問いかけた。
「なっ、何のつもりだよ!!」
数メートル先、雑貨店の出入口で、夜木はえへへと明るく笑いかけてくる。
「何、って…今日はクリスマスだろ。」
ほれ、と夜木が示す片手には、朝比奈と同じ小箱があった。
「クリスマスプレゼントだよ、ありがたく受け取りやがれっ!!」
「だからッ」
気づけば朝比奈は、声を張り上げて叫んでいた。
「何でオレにクリスマスプレゼントくれるのって訊いてんだよっ!!」
朝比奈の台詞に、相手は腹を抱えてゲラゲラ笑った。一頻り笑い終えると、夜木は目尻に残る涙を拭いつつ、相手に問いかける。
「じゃあ、お前は何でだと思う??」
「…っ」
意地悪な質問だ、と朝比奈はくしゃりと顔を歪める。
(そんなの、想像できないから訊いているのに。)
答える代わりに、朝比奈は言ってやった。
「ばぁぁぁかッ!!」
夜木が笑う。心の底から楽しそうに、破顔する。
(本当に最悪なクリスマスだって思ったけど。)
朝比奈は笑顔を眺めながら、ほんのちょっぴり口元を和ませる。
(…思っていたより、悪くないかも。)
分厚い雲からまた、はらはらと新たな雪が降ってくる。
微笑み合う二人を、天が祝福するかの如く…。
〈聖なる夜の贈り物 おしまい〉
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