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Against the rain①
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バタン…
楽屋のドアを閉める音が気のせいか重い。
兼近がもたれかかったのは、微かなドアの軋む音でわかった。
「山岡ちゃんさー、悪いんだけど後でレモン炭酸水買ってきてくれない?」
「はい、いいですよー」
「ごめんねー、なんか梅雨のせいかサッパリしたもの飲みたくって」
「わかりましたー」
フッとドア越しに感じてた兼近の気配がなくなり、その場から足音が離れていくようにきこえた。
(メイク室、行ったかな…)
「山岡ちゃん、かねちの本の打ち合わせって今日が最後?」
「今日の話し合い次第だとは思いますが、でもおそらくあと1回ぐらいで終わるかと思います、予定外なことが起きない限りは…。ツアーも始まりますしね」
「それが終わればもうかねちは自由の身?」
「はい、あとは出版社さんのほうにお任せするだけです」
「そっか」
「やっぱり、りんたろーさんなりに気使ってるんですね、寝れないなんて嘘ついて」
「あら、バレてた?」
「わかります。兼近さんもここがラストスパートですし、大事なところですからね。静かに見守るというのもいいと思います、兼近さんはなんか寂しそうでしたけど」
「寂しそう……か」
「だって、いろんな現場いってもちろん他の方と話してるときも楽しそうですけど…なんですかね、マネージャー馬鹿とでも言うんですかね、やっぱりりんたろーさんと話してるときが一番楽しそうですよ」
俺よりもひと回り以上も年下なのに山岡ちゃんは冷静で兼近のことをよく分かってる。
最初、彼女が俺らに就くってなったときは正直、不安もあったけど今ではなくてはならない存在だ。
「別々で仕事してるときも私のところに脇元さんから連絡入ったら『りんたろーさん終わったの?』って絶対聞いてきますもん」
「そう……。
うん、本はアイツの一番の夢だったからもう少しでゴールできるんだから俺が妨害しちゃいけないんだよな…」
「最後の日がわかりましたら連絡しますね」
「頼むわー」
邪魔はしたくない、それは事実。
夢の足枷にはなりたくない、それも事実。
だから、だから…
カマたくさんから言われた“男同士が付き合うこと”“男同士のセックス”…それが全て俺の汚い欲望となり兼近を攻撃しようとしてる。
それをなんとか“夢”と“朝勃ち”が引き留めている。
兼近が一番大事なときに―――
自分のヘドが出る、何が相方だよ、何が恋人だよ、くだらない自分の欲望に自分自身が負けてんじゃ一生歩む資格なんてねーよ…ただでさえ、俺には“前科”があるっていうのに―――
だから俺は“逃げる”ことにした。
早めに現場に行って先にメイクをしてもらい、なるべく二人っきりの時間は作らない、個チャンの動画撮影を多めにして気分を発散させる…
≪なんか寂しそうでしたけど≫
さすがに今日で5回目ともなれば兼近の大きな瞳が何か訴えていたのは俺も分かった。
コンコン―
「失礼します、間もなく収録開始になります」
運よくスタッフさんが呼びに来てくれた。
スタッフさんが先に来ちゃったからしょうがない、悪いけど先に行くぞ、かねち。
誰にいうわけでもないみっともないいいわけを自分にして腰を上げた。
ガチャ…
セットして衣装に着替えた兼近が戻ってきた。
あぁぁ…これだよ…これだから困るんだよ!
毎回、この番組を担当する衣装さんはガーリー系の衣装を兼近に着させたがるメーカーで俺もよく兼近に「似合う」って言って褒めてた。
でもタイミングが悪い…今はちょっとまともに見れない…けど気になるから鏡越しに気づかれないように見る…
淡いピンク地に水色や薄い藤色のシャボン玉が散りばめられたセットアップ、上着の下には白地に猫のイラストが描いてあるパーカー、パンツは七分丈で兼近の細い足首がのぞいてる。
いつもは可愛くキラキラな【かねち】に変身していくのをただただ和むだけの目で見ていたが、今の俺にはただただ拷問にしか感じられず。またもや目を逸らしてしまった。
≪意気地なし≫
≪そんなヘタレでどう兼近を守っていくんだ≫
ここの楽屋は窓がないはずなのに、雨の音に責められてるようだ。
うるせーよ、
わかってんだよ、
これしか方法がねーんだよ、
今は見えない雨に八つ当たりするしかなかった。
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