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招かれざる客(2)
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空から入った塔の中腹は大体10階くらいの場所だろうか、来たことはあるししばらく居た場所だがあまり覚えがない。何故ならそこまでいい記憶がないから。
吹き抜ける風は相変わらず生温く濁って重たい。
今覚えば『人』である姿でいることがここの空気を重く感じる理由であろう。
魔界と天界の間の子であるセジェスタは3つの姿を持っている。地上にいる時の人である姿、天界でいる時は天使の姿、魔界にいれば悪魔での姿が宛てがわれている。天界であればそもそも姿を変えなければ体が昇華されてしまうため、嫌でも姿を変えるし変わる。ここでは人であってもある程度は入れる領域なわけであって苦労はするがあまり害はない。街中で嫌に目線を感じたのはそのせいからかもしれない。
それに地上に慣れた体は変化することを忘れている。
でもそれ以上にどの姿であっても必ず完全体ではいられない。
人である姿が1番人であるのに近いが、他二つはどうしても中途半端に入り交じってしまうのである。
セジェスタはひとつ深呼吸をすると悪魔に姿に変わっていく。
人ではありえない翼が伸び黒い羽根は軽く舞う。しまい込んでいた翼は苦しくて久しぶりに日の目を見る。この世界に輝かしい光なんてものは無いが。瞳は怪しく赤く変わり、幾分体のシルエットが細くなぞられる。魔力を宿す体はどうしても人の時ほど肉付きは落ちてしまう。ここまで変わったとて所詮中途半端、大体の悪魔は白目がないのに目は虹彩が変わる程度であり牙も生えねば角も生えない。父親から遺伝する筈のものをまんまとどれも受け取っていない。
周りの悪魔から見ればいかに人によっているかとあざ笑れる。元々の創造主が誰かも忘れ、人は弱いと嘲笑う。力が1番のこの世界でこうして見た目でとやかく言われるのかは理解できぬとセジェスタは思う。
翼を広げ膝を曲げると地を軽く蹴飛ばし羽ばたく。いくら人でいようとしても1度姿を戻せば飛び方は忘れておらず、塔の壁を登っていく。もちろん階段を上がって行っても問題はなかろう。だが何となく今はそうしたい気分であった。
セジェスタ、いやここではカレンと呼ぶべきであろう。カレンは最上階で待つ父に元へ急いだ。
会いたいようなそうでないような、久しぶりに見る彼はきっと時間が止まったかのように不変的であろう。時間経過とともに変わっていく自分を彼はどう思っているのだろうか。
ー
途中まで空を舞っていたカレンだが、ふと羽根安めに途中の階で足を地に着けた。カツンっと子気味のいい音が広い空間に響く。
塔の中にはある程度の父の軍である傭人や関係がある者が彷徨いておりいざこざは割とどこでも起こる。地上と違って法律のないここではある程度の秩序は保たれてても裁くものはいない。
死にはしない程度の流血事件は日常茶飯事、カレンが降り立ったのもそのいざこざが目に入ったからである。
喧嘩の元は多分2人、それを取り囲む野次馬で何やら賑わっていた。
「おい、貴様のその態度はなんだ?常々気にはなっていたが急に殴りかかってくるバカがいたか?」
「うるせえ、ちょっとベリアル様に気に入られたからっていい気になりやがって!!お前如き俺様の足元に及ばねぇ癖によぉ」
察するからにベリアル、カレンの父に気に入られたらしい男とそれが気に食わない男が口論になって喧嘩が始まったらしい。そしてその気に食わない男が何の宣戦もなく殴りかかったのだろう、気に入られた男の側頭部を赤い血が伝っている。
「それなら正面からこればいいものを、わざわざ見えないところから来るあたり貴様は私に勝てないと括って来たようにしか見えんがな」
「何を、お前が俺様に気づかない時点でお前の方が間抜けだろうなぁ」
それに話を聞いていれば気に食わぬ男が明らかに負け惜しみなのがズケズケと分かる。お互い手を出さないのはそこで勝敗が決まっているからであろう。口論が続いている当たりあまりにも人らしくて悪魔らしくなくて、カレンはつい声を立てて笑ってしまった。
それなりに野次馬で賑わっていたとは言え、2人の声が聞こえるように皆耳は傍立てていたのだ。高笑うカレンの声は気持ちがいいほどに響き渡った。
「!」
野次馬も口論をしていた2人もカレンの存在に気づき振り返る。視線が一気にカレンに集まったのだ。
カレンはそれに気づき笑いを止め冷や汗がぶわりと浮くのを感じる。
ここはカレンの父親の塔で、そこにいるのはその傭兵や関係者。カレンの存在を知らないものなど居ないはずがない。別に気づかれないようにコソコソ来たつもりはなかったが、ここまでおっぴらにするつもりもなかった。
「これはこれは『カレン様』じゃねーか!父上の慰めにでも来たんですか?」
相変わらず下賎な奴らだとカレンは心底思う。自分の様相をバカにしての発言だろう、父がいる前では小さく縮こまっているこいつらは何かと半端なカレンに食ってかかるのだ。
「おい、やめないか!ご子孫になんて口を聞くんだ、折角こちらに参られたのに失礼にも程がある」
2人のうち父に気に入られたのだろう男は気に食わない男の発言を注意する。見るからに父のことを敬っている者とそうでない者の対象だ。口論も元々そこから来たんであろう、距離を縮めてくるその気に食わない男は注意した彼の忠告は耳に入っていないようだ。
「なあ、カレン様どうなんだ?何とか言ってみろよ、図星過ぎて言葉も出ねぇってか?」
カレンは心底不愉快なこの男をどうしようか悩んでいた。
感情のままに殴り倒してやろうか、でもこの下品で汚らわしいものに触る価値があるかどうかと言ったところだ。
「やめろと言っているだろう!」
カレンより先に手を出したのは先程の男だった。そいつの肩を掴み引き戻す。そいつはそれを待っていたと下品な男は笑みを浮かべた、きっと彼がこうやって攻撃を仕掛けてきたのを裏手に取った作戦を考えていたのだろう。もちろんそれは止めた彼も知ってのことで、それでもカレンに聞く言葉が許せず手を出したのだろう。
カレンは後でこの男を立ててやろうと思うと、ニヤついた下品な男が何か手を出す前にそいつの頭目掛けて足を振り上げた。
黒い翼がバランスを取るために少し開くと抜けた羽根がぶわりと舞う。美しく散るそれが地面に着く前、物の見事に男の頭にクリーンヒットし重たい鈍い音が耳を打つ。
「か、カレン様!」
驚いたのは蹴飛ばされた本人より止めに入った男だった。驚くまもなく気を失ったであろう男は地面に突っ伏しピクリとも動かない。一部始終を見守っていた野次馬も息を飲んで見ている。
「庇ってくれて感謝する、ありがとう。この下品な男はお父様に頼んでどうにかしてもらうよ……さあ、野次馬も行った行ったお父様に見つかったらお咎め食らう羽目になるぞ」
カレンは気丈に振る舞い野次馬を散らす。カレンは今ここに近づいてくる父の気配に勘づいたのだ。これだけ人が集まるのを良しと思わないだろうし、説教が長くなる可能性もある。
「恐れ多いお言葉……カレン様お戻りになられたのですね、美しいお姿になられ眼福にございます」
「意外だな……変化を嫌う君たちからそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ」
あくまでお世辞だとは思うが、不変を好む彼らからそういった言葉を聞けるとは思っておらずカレンは驚く。
そう言って分けているのは自分が彼らと同じだと思いたくないがための言い訳かもしれない。
野次馬がやや減ってきたあたり、カレンが彼の発言に驚いているとふわりと見知った匂いが鼻を掠めた。
上を見上げれば待ちくたびれて迎えに来たのだろう、驚く程に変わらないよく知った父の姿が現れた。
「カレン……どこの馬かもしれない男に媚びを売っている暇がお前にあるのか?」
憎まれ口、本当に来るのを首を長くして待っていたのだろう。魔界に呼ばれて地上で言う大体2時間くらいがすぎていた。
「お父様、お久しぶりです。それなら呼ばれる場所を近くにしたらいいじゃないですか」
取り残された野次馬はこのやり取りに冷や汗をかきながら頭を垂れる。当事者の男も父の姿に驚き同様静かにしている。
「それが出来たら苦労はない、そこの阿呆は誰か餌箱に捨てておけ……使えん無能は用済みだ」
ベリアルはそう言捨てるとカレンを引き寄せ最上階、自室へと飛んで行った。残された野次馬は倒れた男を目にニヤニヤと笑い始めた。餌箱、要するに魔界に住む魔獣の餌にしてやれと言う意味だ。
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