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第四章
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適当なスウェットに着替えてリビングに戻って来ると、テーブルの上には食事が綺麗に並べられている。
「悠叶さん、マジ旨いっす・・」
久々の和食に、しみじみとしながら言う迅鵺に悠叶はニッコリと笑みを浮かべる。
「こんなのでも喜んで貰えて良かったです。ごはんのおかわり出来ますからね。」
「じゃあ、おかわりっ」
悠叶は、迅鵺の顔を見てクスッと笑ってお茶碗を受け取り、迅鵺の口元に付いているごはん粒を摘まんで取ると、ペロッと親指に付いたごはん粒を舐め取った。
その仕草に迅鵺は戸惑う。いい年してごはん粒を付けていた事を恥ずかしく思い、少しだけ頬を赤くした。
「───よ、よく男の口元に付いた飯粒なんて食えますね。」
迅鵺は自分で言って、ふと脳裏に覚えのある言葉が浮かぶ。
“なんで、男が男にこんな事ができるんだ!?”
“コイツはイカれてる”
数ヵ月前、あの男が現れた日に迅鵺が思った事だ。
「迅鵺さんのは平気ですよ。それに俺は──・・いえ、なんでもないです。」
何かを言いかけた悠叶に不思議に思ったけれど、目の前にごはんがよそわれた茶碗が置かれて、なんとなく言葉を呑んでしまう。
“悠叶さんは、なんで男の俺なんかに会いに来るんですか?”
ついに先程呑み込んでしまった言葉を伝えることはないまま、迅鵺は残りの食事を平らげた。
”ご馳走さまでした“という声を聞くと、悠叶は後片付けを始める。
「なんだか片付けまでさせちゃってすいません。」
「いいえ。元はと言えば俺が酔っ払ったのが悪いので・・迅鵺さんに迷惑掛けちゃって、俺の方こそすいませんでした。」
事の元凶は好奇心から無理に飲ませた翔なのだが、悠叶は律儀に言う。
そんな悠叶に“もうこんな事が起こらないように伝えてあるんで”と伝えた。
片付けも終わり落ち着いた頃、悠叶は仕事があると言うので、マンションの下まで見送る事となった。
「じゃあ、今日は泊めてもらっちゃって、ありがとうございました。」
マンションのエントランスを出た所で、迅鵺に向き合って言った悠叶のその表情は、少し名残惜しそうだ。
「いえ、俺も飯作ってもらったし大丈夫です。何かあればLINEでも送って下さい。」
悠叶の人柄が分かってきた頃に連絡先を交換していた。とは言っても連絡の内容は、悠叶が来店する金曜日に遅れるだとかそんなやり取りしかした事はない。
「わかりました。じゃあ、もう行きますね。また金曜日にお店に行きます。」
軽く頭を下げて歩いて行く悠叶の背中を見ながら、迅鵺は思っていた。
いい人だとは思うんだけどな・・
響弥がやけに警戒するし、迅鵺も最初は警戒していたから、迅鵺なりに注意深く見てきたつもりだが、悪い人には思えなかった。
それでも、毎週お店に通ってくれる理由だけは分からなかった。
いや、そこには触れないようにしてきただけかもしれない。
“もしかしたら、悠叶はゲイなんじゃ・・”
ゲイだとしたら、悠叶はそういう目で迅鵺を見ているという想像が容易に出来てしまう。
偏見かもしれないが、今の迅鵺ではゲイと聞くとどうしてもあの男と重なって見えた。
あの男の事を考えるとやはり怖いが、迅鵺はあの男に与えられた快楽を忘れられないでいた。今でも思い出すだけで身体の芯が熱くなる感覚に気付かないフリをしているだけ。
迅鵺は、ただ漠然と怖かったのかもしれない。何かの拍子に身体が求めてしまったら──・・
そうなってしまったら、今度こそあの行為が気持ちいい事なんだと認めざるを得ない。
平和な日常の中で、無意識に迅鵺は抵抗していたのだ。
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