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第五章
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「迅鵺さん、今晩は。」
金曜日になり、悠叶はいつものようにTOP SECRETへと来店した。
「いらっしゃいませ、悠叶さん。」
迅鵺はいつも通りに出迎えたつもりだけど、人一倍迅鵺を見てきた悠叶は、些細な変化にも気付いた。
いつもは出迎えてから席に移動するまでの間、極力悠叶の顔を見ながら会話をする迅鵺が、挨拶をして直ぐに目を反らし席へと歩き出す。
席に着くまで数回の会話はしたものの、悠叶はそんな迅鵺を見逃さなかったのだ。
いつものように悠叶の隣りに座って薄い水割りを作ると、悠叶の前に用意されているコースターの上に置く。
マドラーで掻き回された水割りは、カランと氷がグラスを擽るように音を鳴らした。
時間にしたらたったの数秒の沈黙だが、ホストとしてお客を持て成すこの場では長い間(ま)で、本来ならお酒を作りながら会話をするのが当たり前だ。
酒を作り終えて、流石に黙っている訳にもいかず、迅鵺の重たい唇は開かれる。
「───今日も、寒いっすね・・悠叶さん鼻が赤くなってますよ。」
悠叶は言われて鼻の頭を人差し指で軽く擦ると“そうですか?”と言って、気まずそうに笑った。
「あ、あのっ──・・迅鵺さん。俺、何かしましたか?」
明らかに眉を下げてしゅんと落ち込んでる姿の悠叶を見ると、迅鵺は罪悪感を感じてしまう。
まるで、犬が飼い主に見捨てられたかのような悠叶の素振りに、悠叶が迅鵺の事を好きだったとしても、あの男と重ねて怖がる程の事なのかと迅鵺は思わせられる。
目の前に居る悠叶は、やはりあの男とはまるで雰囲気が違う。
響也が言うように、ただ優しい人のフリをしているだけだとでもいうのだろうか。
響也に念を押されたものの、迅鵺は完全に腑に落ちている訳ではない。
いくら見た目がそっくりだとは言え、そもそもあの男が本当に実在する者なのかさえも定かではない上に、迅鵺の目の前にいる悠叶は、いつも優しい。
それに、あの男が本当に悠叶ならば、迅鵺の部屋に泊まった時に何かされていてもおかしくない筈だ。
迅鵺は、柄にもなくグルグルと思考を廻らせる。
「・・迅鵺さん?」
気付くと迅鵺は、いつまでも煮え切らない思考に苛立ち始めていた。
なかなか返答がない迅鵺に心配になった悠叶は、不安そうな表情で迅鵺の様子を伺った。
─────パンッ!
「っ?!」
急な迅鵺の行動に、悠叶はビクッと身体を跳ね上げた。
迅鵺が両頬を自分の両手で叩いたのだ。
あ────っ!イライラするっ!馬鹿みてぇ
答えの出ないことをいつまでもナヨナヨと考えている自分に、いい加減嫌気が差したのだ。
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