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第五章
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「────かな、た・・」
十年ぶりに見た奏太は、少しだけ背が伸びたみたいだが、それでもそんなに高くはない。
悠叶よりは低いけれど、奏太より背の高い男が奏太の隣に居て、その男の腕に絡み付いて幸せそうに笑っていた。
そんな姿の奏太を見て、悠叶は複雑な心境だった。
奏太を辛い目に合わせてしまったのは事実だけれど誘ってきたのは奏太で、あの出来事がきっかけで悠叶はトラウマになってしまったのだから。
“正直、会いたくなかった。”
悠叶は目の前の奏太から目を反らす。
「─────っ、悠叶・・?」
奏太も悠叶だと気付いたようで、驚きと気まずそうな表情を見せる。
だけど、一瞬でその表情は一変した。
「なんでこんな所を彷徨いてる訳?絶対に会いたくなかったのに・・最低なんだけどっ!」
まるで、憎しみを抱いている相手に向けるような、冷たく鋭い目つきで悠叶を睨みつけたのだ。
悠叶は、ショックのあまり声も出せず、大きく見開かれた目は奏太から反らす事が出来ない。
“奏太は、ずっと俺を恨んでいたのか?”
奏太の様子からそう伝わってきて、ジクリと胸が痛みを訴えた。
「奏太、知り合いか?」
奏太の隣に居た男が、不振そうな表情で訊ねる。
奏太は、一度隣の男の顔を見上げると男の腕に絡めていた腕にギュッと力を込めて、まるで告げ口でもするかのように言い放った。
「カズくんっ!この男だよっ!前に話した事あるでしょ?僕を酷い目に合わせた張本人だよっ!!」
カズくんと呼ばれた男は、奏太の話しを聞くなり苛辣な目で睨み付けると、いきなり悠叶の胸ぐらを掴んできて、思いっきり頬を殴った。
「奏太から話しを聞いてから、一度殴ってやりたいと思ってたんだ。お前みたいな奴は、一度死ぬ程の苦しみを思い知った方がいい。」
そう言い捨てると、奏太の手を引いてその場を去っていく。
去り際に、殴られた衝撃で尻餅着いている悠叶を奏太は無言で見下していった。
「─────っ、」
ショックのあまり、ビクとも動けなかった。
殴られた場所は、どんどん熱を持っていって、そこから脈打つように痛みが広がっていく。
痛いのは、頬だけではない。殴られた場所よりも、遥かに心が傷んだ───・・
何度も思った。自分は生きる資格がない程に醜い性癖を持っていると。
けれど、死ぬことなんで出来なかった。
ただただ、虚しさと悲しさ、苦しみと孤独が悠叶の心の傷痕を抉っていったのだ。
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