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第八章
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「悪いな。結局お前にも手伝わせちまった。」
疲れた顔をして、テーブル席にドカッと座る響弥。
あの後、響弥のお客が三十分以上トイレから出てこなくて、痺れを切らした響弥達はトイレを抉じ開けると便座に座ったままお客は寝ていたのだ。
パンツも脱いだまま眠りこけていたお客を揺するが全く起きる気配がなく、諦めた響弥達はパンツを履かせて一先ずテーブル席のソファーに寝かせると、お客の財布から住所が分かる物を物色する。
本当はタブーな事だが、状況が状況だけにしょうがない。
健康保険証から住所が分かった後タクシーを呼び、響弥はお客を家まで送り届ける事になり、迅鵺はというと、トイレに吐かれて汚れていたのを掃除して待っていたのだった。
時刻はもう三時を回っている。
「いえ、大丈夫っす・・」
一息つくと気を取り直して、迅鵺は本題へと入った。
悠叶の性癖や過去の出来事、悠叶が悩んできた事や今までの不可解な出来事の全てを響弥に話した。
「───・・信じられねぇ話だな・・けど、それが本当の話ってんなら、全ての辻褄が合っちまう。」
響弥は、深い溜め息を吐くと上を向きながら目頭を親指と人差し指で押さえて、ソファーの背凭れに寄りかかった。
響弥の部屋での出来事を思い出しているのだろう。
「───けど、許せって言われても俺には割りきれねえ・・アイツをどうこうするつもりは、もうねぇけどよ。でも、俺はアイツさえ居なければ・・分かるだろ?」
「───はい・・その、言いづらいんすけど、悠叶さんも響弥さんには、あまりいい感情を持ってないみたいっす。」
迅鵺は罰の悪そうな顔で言ったが、響弥は当たり前だと言わんばかりに、ハハッと笑った。
「そりゃそうだろ。アイツはこんなになっちまうくらいには、お前が好きなんだろ?けどよ、わざとじゃないにしろお前を苦しめた事実は消えねぇんだ。俺だってあんなヤツ好かん。」
やっぱり二人の仲を取り繕うのは難しいようで、迅鵺は肩を落とす。
「まあ、なんだ・・・お前は、鮎沢が好きなのか?」
「なっ!?何言ってんすかっ!?そんな訳───・・」
迅鵺は、予想だにしない響弥の質問に顔を真っ赤にして勢い良くその場に立ち上がった。
「───って、違いますよね・・・正直、分かんないっす。」
つい咄嗟に否定した迅鵺だが、自分に好意を寄せられているのを知っていて応えられない上に、真剣に話を聞いてくれている響弥に対し、恥ずかしがって感情的に否定するんじゃ申し訳が立たない。
すぐに、そう思い直した迅鵺は、正直な自分の気持ちを明かした。
思ったよりも怒りが沸いてこなかったとはいえ、無理やり犯された上に、響弥には恥ずかしい所を見られ、挙げ句、殺されそうにもなった。
けれど、実際に見てきた悠叶は気が弱くて、とても憎める所なんてないくらい人が良い。
そして、夢の中で毎日キスをされたせいなのか分からないけれど、悠叶を想うと時折、切ないく鳴る胸の音に困惑していた。
迅鵺は、歌舞伎町を代表する程といっていい程の人気ホストで、それなりに男としても自分に自信を持って、この世界で生きてきた。
それを簡単に翻す程、男同士という問題は簡単ではない。
ただ、悠叶が自分を慕う気持ちに不快感が無かった事だけは自覚している。
「そっか・・お前から鮎沢に惚れてるだなんて言われたら複雑だけどな。まあ、それは自分で“気付くしか”ねぇな。」
なんとなく含みのある表現に、迅鵺は気付いたが言葉を呑み込んだ。
“それじゃあ、既に俺が悠叶さんを好きみたいじゃないっすか”
けれど、もし肯定でもされたら・・・迅鵺は認めてしまう自分を想像して怖れた。
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