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紅が蒼の屋敷を出てすぐのこと。
門まで行くと、人間が1人木の陰に隠れていた。
どうやら屋敷の様子を窺っているようだった。
もし、蒼の邪魔になるような存在なら消しておこうと思った紅はゆっくりとその人間に近付いた。
「そこの君。何をしてるんだい?」
紅が声をかけるとビクッ!として、恐る恐る顔を覗かせた。
まだ少し幼さの残る顔をした青年。
オレンジブラウンの明るい髪が彼の性格を現しているようにも見えた。
「君は一体?」
「こ、ここの屋敷で世話になってる叶弥って奴の親友で陽楽って言います」
こんな簡単に名前を晒すなんて、阿呆か無知かのどちらかだと呆れながら紅は陽楽のことを見つめた。
これが、蒼に纏わりつく虫の友人。
「ここで何を?」
「この屋敷に引き取られてから付き合い悪くて、毎日すぐに帰るんで、どんな人なのか気になって……」
この口ぶりだと陽楽は蒼と叶弥の関係は知らないのか、紅はそう思い、屋敷と陽楽を交互に見た。
「友人が心配だと?」
「心配って言うかぁ……何て言うか……」
「取られた気がして嫌だ、と」
紅のその発言に図星だったのか陽楽はバッと紅の顔を見て、え?と固まった。
なるほど、そういうことか。
紅は何か合点がいき、同時に利用出来ないかと思案した。
うまくいけば、あの邪魔者を排除して蒼を手に入れられるかもしれないと思ったのだ。
「引き取られた、とはどう言うことかな?親御さんは?」
「俺も叶弥も親は居ないんですよ。施設育ちなんです」
施設。
親の居ない人間の子供達が身を寄せる場所のことは認識はしていたが、そこで育った子供に会うのは初めてだった。
尚更、利用価値はあるのではないか。
「なるほど……それで、様子を見に来た、と」
「……この前、ここの人が叶弥にキスしてるの見たんです。だから俺、出来るなら連れ帰りたい」
陽楽は気付かなかったが、紅の眉がぴくりと動いた。
蒼が。キスをした。
恋人であると紹介されたばかりだとは言え、分かっていても腹が立つ。
やはり、あの人間は早めに引き剥がさねばならないと。
目の前に居るこの人間は利用出来そうだ。
「あの、貴方は?」
「ああ、私はこの屋敷の主人の友人でね」
「そうだったんですねぇ……」
どう利用すればいいか。
少なくとも、このままでは恐らく役には立たない。
最低でも蒼の屋敷を普通に訪ねて、蒼との時間を邪魔できる程度の距離になってもらわねば意味がない。
かといって、急に陽楽を紹介しに連れていったとしても蒼にはきっと警戒されるだろう。
屋敷の前に居たからというだけで連れていくのは、下手をすれば機嫌を損ねる。
叶弥の友人と名乗っているだけで断りもなく連れてきたのか、と。
つまり、紹介せざるをえない状態にしなくてはならない。
「これは提案なのだけれど……」
「何ですか」
「良ければ私のところへ来ないか」
「えぇ?!」
紅の突然の申し出に驚くのも無理はない。
目の前の男が初対面でうちに来ないかだなんて、怪しさしかないのだから。
「私はこの屋敷の主人とは顔見知りだし、私の所で引き受ければ君を私の同居人として紹介できるよ」
「……何でそんなことを?」
「君がその友人を好いているように、私はここの主人を好いているんだ。だから、お互いに引き離せればWin-Winだろう?」
にこりと。悪魔のような微笑でそう言い放った。
しかし陽楽にとっても悪い話ではない。
これで上手く紅が気を引いてくれれば、叶弥は戻ってくるかもしれないし、自分を選ぶかもしれない。
「悪い話ではないと思うけれど?」
「……お願いします」
差し伸べられた悪魔の手を陽楽は迷わずに掴んだ。
このまま蒼に奪われているくらいなら、悪魔でも何でも利用してやろうと決めたのだ。
「では、行こうか。色々と準備だったりとあるだろうから、急いだ方がいい」
すっと差し出された手。
この手を取ったらきっと後戻りなど出来ない。
けれど、後戻りなんてするつもりはない。
その手に自分の手を重ねた。
それからの事はあっという間だった。
その日の内に施設に行き、紅が引き取る旨を伝えた。
紅は不動産経営者であり、陽楽の両親の古い友人だと施設の人間に自身の身分を明かす。
経済的に問題はないと判断され、後は身元を調べるだけとなり、詳細は後日伝えるとした。
その日は引き取り可能となった場合の必要な手続きなどの話をして終わる。
陽楽はもう少し話がしたいので近くまで送ると施設の人間に話して外に出た。
「大丈夫ですかねぇ……?」
「恐らくは。向こうとしても引き取れるなら引き取って欲しいと思うだろうし、要は私が引き取るに際して問題のない立場であることが証明されれば良いんだ」
「なるほど……?」
「君の年齢を加味すれば、私が独身でも差程問題はないと思うよ」
詳しいことなどはあまり分からないが、何となくは理解はできた。
紅が引き取り手として問題ないことが証明されれば良いということだ。
「ああ、私は紅だ。よろしく陽楽」
「よ、よろしくお願いします、紅さん」
「紅でいい。堅苦しいのは止めにしよう。普通に話して結構だよ」
夕日に照らされる紅くさらさらとした紅の髪と笑顔。
向けられた笑顔が本物なのか、否か。
笑顔の裏にあるものが何であるのか。
そんなことなど気にしていられない。
「分かった。改めてよろしく、紅」
もうこの手を取ったのだから。
何としてでも、蒼から叶弥を奪い返そう。
陽楽は胸の奥に秘めた決意をもう一度固めたのだった。
そんな2人を黒い猫が2匹、木の上から眺めていた。
片方は赤い目の、片方は青い目の真っ黒な猫。
一瞬足りとも目を離さず、監視するように2匹は見つめている。
陽楽はもちろんのこと、紅でさえ猫の存在には気付いていない。
紅と陽楽が分かれ、完全に紅の姿が見えなくなった事を確認してから陽楽の後を追う。
静かに後をつけ、陽楽が施設に入っていくのを見届けて2匹は静かにその場を去った。
しばらく歩いて施設が完全に見えなくなった辺りで、2匹は公園の茂みに入っていった。
数分して、その茂みから炎と氷が姿を現した。
「さて……帰りますよ、炎」
「早く帰らないと夕飯に間に合わなくなるね」
「今日は叶弥様のお好きなハンバーグですからね。気合いをいれないと」
「叶弥様が家に来てから、主人も食事するようになったね」
「以前はあまり食事なんてなさらない方でしたからね。輸血パックを吸うくらいで。叶弥様の影響力は素晴らしいものです」
食材などの入った袋を持ち上げて氷は言った。
半分を炎は氷から受け取り歩き出す。
夕焼けも沈みかけ、オレンジと藍色の混ざりあった色の空。
夜はもうそこまで来ている。
のんびりしていると本当に夕食に間に合わないと、2人は歩を早めた。
きっと叶弥も腹を空かせて待っているだろう。
今はただ、この平穏な一時を守るために2人は帰路を急いだ。
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