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彼
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夏休み前の試験が終わり、入学してからあっという間に一学期が終わった。
そして今日は最終日。校長先生の挨拶と連絡事項を聞き、終業式を終えた。残る用事などない生徒は午前中で帰宅する。俺も游も午前帰宅組で今日は佐岡が自宅まで来て昼を一緒に食べるいことになっているのだが、先生からの呼び出しで30分ほど待っていた。
「遅い、暑い、教室で待てばよかった」
「ん、いくら日陰でも外に近くて暑い」
いくら昇降口の日陰の部分に居るとは言え、熱風が流れ込んで涼しいも何も無い。互いに暑い暑いと脳が溶けたような会話をしていた時、ふと本をリュックに入れ忘れている事に気がついた。
「游悪い、ちょっと本取ってくるからリュック見てて」
「番人任せんさい、走らなくていいから取っておいで」
游の言葉に従い駆け足でなく歩いて教室に向かう。
先ほどまで夏休みだ!と喜びの声で騒がしかった校舎内には、蝉の声だけが五月蠅く鳴り響いている。さっきいた昇降口と違い、開けたとこではない細い廊下を1人で歩く。まだ昼だというのに日陰にあるせいか少し薄暗いし、静かすぎて妙な不気味感がある。こういう時に限って、人間の脳みそは嫌な創造に優れているのが、本当に嫌になる。
ガラガラとしんみりとした空間に嫌に響く教室のドアを開け、佐岡が戻ってくる前に本をとって戻ろうとロッカーから無事本を回収し、いざ教室を出ようとした時。
「あっ、」
突然の風と共に大量の紙が教室内に舞った。窓が開いていたのか……。
早く戻りたいが、大量の紙を放置するのは気が悪いので、仕方なく拾い集めた。誰のものなのか、どこの席から飛んだのかわからないから取り敢えず教卓にでも置いておこう。
拾いながら文字に目をやると、知っている感じの言葉の雰囲気を感じた。あの日見つけた詩人になんだか似ている気がする、何て呑気に考えながら集めていく。
その時、誰かがドアを開ける音がした。その影響なのかまた少し風が吹いて数枚原稿用紙が飛んだ。ドアに立つ顔を見るも、見たことはあるのだろうが思い出せない、誰だろう。でもきっとこの教室に入ったのなら同じクラスなのだろう。彼は、無言のまま歩み寄り飛んだ原稿用紙を一緒に淡々と拾い始めた。まとめ終え、教卓に置こうとしたがものすごく視線を感じた。俺だって必要な時は会話はする。
「この紙は、君の?」
話しかけたのに驚いたのか知らないが、数秒して相手が頷いたので大人しく紙を渡し軽い会釈をしてその場を後にした。
横を通り過ぎた時、微かにあの日感じた懐かしい匂いがした。
戻りながら先ほどの人物について考えた。あの香りは入学式の時に微かに嗅いだ香りだった。それに長い前髪で隠された間から覗き見えたあの瞳。アンバーアイだった。黄色みの強い茶色のような色、別名「ウルフアイズ」という。昔父さんの親戚に会った時、一人がその目を持っていた。俺は彼女に素直に綺麗だねといったが、彼女はどこか複雑そうな顔をしてありがとうと言っていた。今思うと、多分珍しさのあまり外でいじめにでもあっていたのだろうかと思う。彼女は家族以外の人間が近付くと少し怯えるそぶりを見せていたから。彼女もまた彼と同じく前髪が長くそれに合わせて眼鏡をしていた。あんな宝石みたいな綺麗な宝物……。
懐かしい記憶が俺の中で駆け巡った。いつもは悪夢に消されて思い出すことのなかった、何もない幸せだったころの俺とりつ兄との日々。
ボーっとしながら歩いていたのか気が付いたら昇降口についていた。
「あれ、俺より蔭久の方が後に来たのは何事だ?」
「クロ、戻ったのか…って大丈夫?暑さにやられたのか。靴はかねぇの?」
「……あ、う、うん」
いつ下駄箱から出したのか分からない靴を履き、大丈夫だと伝え足を向ける外へ向けた。
まだ、彼の微かな匂いが鼻について取れなかった。
帰り道も意識はパッとしなかった。
「彼をもっと知りたい」
ただその事で頭がいっぱいだった。幸い昼飯の献立は事前に立てていたため買う食材には困らなかったが、あまりに遠くを見る俺に游と佐岡は率先して買い物を手伝って家まで持ってくれた。
料理中もここに在らずという感じが抜け無かったが、特に味の問題もなく游が提案した生姜焼きを作った。ちなみに夕飯は佐岡が提案したロールキャベツを作る予定だ。先ほど父さんから、夕飯までに帰れるようになったから佐岡を足止しておくようにと頼まれた。俺が游以外に話せるようになった相手に会いたいのだろう。本人に伝えたら「やだ、モテ期?」なんて言って家に夕飯まで友人の家にいることになったと楽しそうに連絡を入れた。
游は変わらず美味しいと食べてくれて、佐岡はいい嫁になるな!なんて言いながらお代わりをした。別に俺は誰にも嫁ぐつもりも嫁を貰う予定はないがな。
食後休憩をはさんでから夕飯時が来るまで課題をこなした。特進コースの俺たちの課題は量よりも質のため、内容は一つ一つ濃く終わらせるのに時間が掛る。初日からコツコツ進めていかないと後半自由な時間が無くなってしまう。俺の夏休みスタイルはいつも前半に課題を潰し、後半は二学期の予習をしながら読書に励むことだ。生きがいを課題に取られないように一つ一つを潰していく。
――ピッ、ピッ
「んんぁー、もう17時か。早いな」
「佐岡お前、俺を腰掛にするな寄りかかるな自立しろ」
「紅茶でも入れる?もう30分したら夕飯の支度始めるしそのついでに」
「「それでは遠慮なく、紅茶を下さい!」」
昼食以降、約4時間ほど課題に向き合っていた。游と佐岡は互いに重いと言いながら寄りかっかりあっている。そんな二人を置いてキッチンにて紅茶と糖分補給として数個のチョコレートを用意し持って行った。
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