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彼②
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皆で紅茶とチョコレートをつまみながらゆっくりしていた時、佐岡が誘いを持ち掛けてきた。
「なぁ、游たちは夏祭り行く?俺ここ地元だからいろいろと案内するよ」
「あぁ、そうだな。クロも俺もそんな祭りなんて行かなかったしいい機会かもな。人結構多い?」
游と俺は都会からこちらの田舎にある高校に通うために引っ越してきたため、この地域については何も知らなかった。そして、佐岡の地元だということも今初めて知った。
「……佐岡。ここ地元なの?知らなかった」
「言う機会がなかったね。俺の地元はここだよ幼稚園から高校まで全部ここ。さすがに大学は地方に行かないとないからあれだけど、通学楽だぞ~」
「佐岡は、地元が好きなんだね」
「当り前よ!こんな居心地のいい地域はないで?」
佐岡は、漫勉の笑みで幸せな町だと言う。俺も自身の地元をそう思ってみたいと思うこともある。
殺人と殺人未遂で捕まった母の子供として噂が周り、地域や学校での居場所などなかった。
地域という囲いは時に自分に牙をむく。俺はただの被害者に過ぎないのに、皆は俺を殺人犯の子として見る。数年経っても時々記者が訪ねてきたり落ち着きのない常に監視されていた俺の地元。
それに、自身の容姿が目立つこともあまり好ましくなかった。盗撮をされては勝手にアップされたり回し送りされた画像から事件を再び掘り起こされたりと、まるでこちらの方が悪いかのような環境で過ごしてきた。
ここでは何事も無く静かにひっそりと高校生活を送りたい。
それと今何からも犯されいない時を大事にすごしたいと思う。
今この時を佐岡と共に大事にしよう。そう思った。
「佐岡、游。俺お祭り行きたい。だから、一緒に行こう」
「おっしゃ。任せとき。この地域の名物は海鮮物の屋台が多いことや。地方にはない屋台飯が多いと思うぞ」
「当日友ちゃんも行けるか誘ってもみたいな……」
「蔭久のおとん?いいじゃん、夕飯時に会うから挨拶がてら口説いてみるわ」
夕飯……。あっ、気付けばそろそろ18時になる時間になっていた。そんなに時間が過ぎたのか。
「俺、佐岡のリクエスト作ってくる」
* * *
アツっ
叫んだ俺の声に我先にと駆け付けた佐岡と救急箱を持った游がかけてきた。
「クロの叫び声なんて久しぶりに聞いたけどびっくりやけどしたのか?」
冷水で冷やされている俺の指を見てそう問うた。
「あぁ……ボーっとしてたら手がフライパンに乗ってって、別にたいし」
「えっ、ちょっと、そんな怖いこと言わんといて火は見てるから游に手当てしてきてもらい」
佐岡に言われ大人しく手当てへと連れ出された。どうせ味付けも終わってるしあとは煮込むだけなので任せることにした。
相変わらず手際よく手当てをする游。さすが、母親が看護師というだけあるのだろうか。游の手動きを見ながら俺は聞いてみることにした。
「なぁ、游。俺のクラスにアンバーアイの子っている?あ、オオカミみたいな目の色をした子なんだけどさ……」
「オオカミ?ってみんな目の色なんて気にしたことなんてないし分からないよ。他の特徴は?」
「あ、前髪が長くて目が見えない。あと俺よりうんと小さくて真っ白だった。あととても細くて夏でこんなにも暑いのに長袖だった」
そう答えると游は誰か見当がついたのか「あーそいつね」といった。俺は誰だかさっぱり分からないけど。
「前髪長くてひょろくてって言ったら申し訳ないけど、細身で目立たない子でしょ。その子は同じクラスの楪(ユズリハ)って奴だよ。楪沙玖(ユズリハサク)。お前と委員会同じだから認知してると思ったのに…そこまで興味がなかったとは……」
本当、クロはクロだよなと嬉しくもない褒めをもらった。しかし、まさ彼と委員会が同じだったとは気が付かなかった。委員会活動というより俺は本に会いに行って戯れてるだけだから周りなんて見ていなかった。それなら彼は俺のことを知っているのだろうか。
まぁでもそんなことはどうでもいいんだ……。
そうか、あの子は楪っていうのか。先ほどまで誰だろうと考えていた彼の名前だけでも知ることができて少し嬉しかった。もっと彼のことを内側まで知ってみたいとほんの少しだけ人に興味を抱き始めた。
「ねぇー蔭久もういいんじゃね?火止めていいか見に来てー」
佐岡の一声に任せていたことを思い出した。游に一言お礼を伝え俺は佐岡の元へと顔を出しに行った。
* * *
今まで周りの人間の名前なんて関わりのある担任や教科担当の先生以外覚えようともしなかったあの空っぽだった読書馬鹿が自分からあの子は誰だと口にしてきたときはどうしたものかと思った。
思わず育児日記に「今日は一人名前を覚えられました感動!」なんて書く勢いだ。
心から大切だったものを目の前で亡くしてから余計な情が湧いたり面倒ごとが起こらないようにと自ら他の人と距離をとっていたクロが、自分から知りに行っているのは生れ落ちてからずっと一緒にいる幼馴染の俺にとってはとても嬉しい変化だった。
でも、その気になる相手が楪なんだから驚いた。俺と特に共通点なんてなかったのに、共通の友ができるかもしれないなんて前代未聞だ。
ユズもクロのことはなんとなく気になるなんて言ってたし丁度いい気がする。
夕飯を食卓に並べていると丁度良く友ちゃんが帰宅した。準備しているクロに代わり友ちゃんへサラッと例の佐岡を紹介するかと声をかけた。
しかし、クロの父を見て口をあんぐり開けながら「蔭久のパパってこれまたびっくりイケメンだな」と挨拶より先に呟いたことで謎に仲が深まった。それからはクロのことをよろしくだの俺以外にも友達ができてとウソ泣きを披露しながら楽しくご飯を食べた。
ここ最近の変化で友ちゃんもちゃんと父親として息子を心配する気持ちが少しずつ落ち着いてる感じがして俺はとても嬉しかった。そしてこの時がずっと続いてほしいと思ったしこれからも俺が守ろうと思った。
久々に笑ったクロの笑顔を見て俺は目じりが熱くなった。
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こんなグダグダとまとまりのない文をここまで読んでいただきありがとうございます。
僕事なのですが、まだ学生の身のため課題に終われ死んでいたり。個人的に情けないほど精神が弱いため情緒の起伏が激しく落ち着いて過ごせないことが多い日とそうでない日とあり、なかなか執筆環境が整えられず更新が今後も疎ら気まぐれに更新されていきます。
先の章はざっと書いてはいるのですが納得がいかずに練り直しを繰り返しているため更に時間が掛ると思いますが、途中放棄をするっつもりはありません。彼らの物語を最後まで書き終えてあわよくば番外編やパラレルワールドなどのSSみたいなのも書きたいと思っております。
何年かかるか分かりませんが今後もカタツムリスロー更新の僕にお付き合いください。
by蓮苑
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