アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
(…みじめだ。)
某飲料メーカーの会社に入った朝倉光は、オフィスに佇んだまま心の中でそうぼそりと呟いた。…目の前には、これでもかと顔を赤くして怒る上司の姿がある。
「…~ったく、だからあれほど勝手に一人で判断するのはやめろと言っておいたのに!!おい、聞いているのか、朝倉!!朝倉!!」
社会人になって、教科書には載っていなかった色んなことを知った。怒り心頭している上司の前では、口答えするのは懸命でないとか。ぼそぼそ返答すると煽られたと誤解されて説教の時間が二倍近くに伸びる(当社比)、だとか。
「はい。聞いています。スミマセンデシタ。」
だから、素直に頭を下げる。が、気が抜けていたので後半の謝罪が見事棒読みになっていた。すぅ、と上司の荒ぶる呼吸音がする。…ヤバい。課長テーブル二時間コース入りましたッ、そう考えた、刹那。
「あ~、あ~、課長??僕も、課長にぜひッ、ぜひともお聞きしたい質問がありまして~…。」
割って入ったのは、同じ営業の宵宮だった。ひょろりとした体格で、短い茶髪。軽薄な雰囲気の持ち主で、中身もペラッペラのお調子者だ。いつも、へらっとしていて、芯がない。
「ほぉ。…で、何だ、宵宮。」
これから仕置きタイムだったのに、とばかりに顔を顰める課長に宵宮はニコニコと愛想のいい笑みで続ける。
「いやぁ~、課長、この間の話、聞きましたよ??課長ってば~…。」
宵宮は言っててうすら寒くならないか、それという程に課長を褒めたたえ、ヒラの営業だった時、物凄い難しい相手先を顧客にしたという武勇伝を口にした。
朝倉はふいと目を伏せる。
(…何だ。何かと思えば、課長が酔っぱらった時に、自分からいつも話す武勇伝じゃないか。)
だが、おだてられていい気にならない人間もいない。課長はみるみる内に赤かった頬をこれでもかと緩ませだす。
「はっはっはっ…!!何かと思えば、そんな話か、宵宮。いいか、実は俺にはもっと凄い功績があってだな…??」
「ええ~っ!!もっと凄い功績!?何ですか、何だろう、僕すっごく気になります!!」
お前ら、漫才するなら外でやれ。朝倉は喉まで競り上がった本音を必死に飲み下した。
「良いだろう、良いだろう、宵宮!!お前、もうすぐ休憩だったろ??上司命令で休みを許可してやる!!その代わり、俺の話に付き合え!!」
「え…!??い、いや、それはちょっと…。」
瞬間、宵宮の顔から血の気が一気に引いていった。…多分、宵宮はオフィスの指揮が下がる課長の説教をぶった切りたかっただけであって、従って無論課長の武勇伝をもっと聞きたかったわけでは絶対にない。
「がははっ!!今頃遠慮せんでもいい、ほら宵宮、喫煙所行くぞ!!」
「いや、僕吸いませんし…。」
へらっと笑いつつやんわり断ろうとする宵宮だったが、課長からがっしりと肩を抱かれ、小さく、ひぃっと悲鳴をあげる。
「あ、あさく…ッ!!」
助けろ今説教モードから救い出してやったろうが、恩着せがましい宵宮の視線を受け、同僚は…ぷいっと明後日の方に顔をやった。
課長に引きずられていく哀れな獲物が、声なき本音を吠えたような気がした。
『僕の貴重な一時間休憩を返せぇぇぇ~~~ッ!!』
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 4