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君の顔が見えない※
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クリームを顎から頬にかけて塗って、剃刀をそっと当てる。人の髭を剃るのは緊張するが、目がぼんやりとしか見えない竣に任せたままにするよりは遥かに安全だ。
達は桶で浴槽のお湯を汲んで、顔の泡を流す。つるりとした色白の卵肌だった。髭を剃ったばかりなので少し赤い。達は浴室に置いてあった保湿剤を頬に薄く塗って、湯船に誘導する。と、竣がぽつりとつぶやいた
「…………一緒に入りたい」
何でそんな事を言うのかは分からない。しかし達は一瞬、ものすごく迷った。ただでさえ目のやり場に困っている。
針金のようにまっすぐな濡れ羽色の髪。色白の肌、桃色の乳首、浮いた肋骨。男にしては細い腰をしているくせに、痩せているくせに、やけにむっちりとした尻。肉が落ちているけれどそれでも柔らかそうな太もも。細い足。
達はどこを見ていいのか分からないまま、必死で目をそらしながら髭を剃ったり誘導したりした。湯船で密着してしまおうものなら……自分が何をするか分からなかった。
しかし、先ほどの竣の様子を思い出す。剃刀を首筋に当てて泣いていた……放っておくと何をするか分からない。不承不承うなずいて、なるべく竣を見ないようにして湯船に浸かる。
「子どもの頃は家に風呂が無くて、よく銭湯に行ったな」
「……うん。懐かしいね、竣ちゃん」
浴槽は成人男性二人で入ると狭く、嫌でも身体が触れ合う。竣はもじもじと下を向いて、膝を立てて揃え脚を両腕で抱えながら思い出話をする。
達の顔は真っ赤。風呂の熱気だけではない赤み。困ったみたいに眉を寄せて、唇を噛んで、今にも泣きそうな表情。それは、恋をしている人間の顔だった。でも、竣はもうぼんやりとしか物が見えないから気づかない。ただ友達同士で風呂に入っているだけだと思っている。
今、達はどんな顔をしているのかな。勢いで風呂に誘ってしまったけれど、恥ずかしくなってきた……竣はそう思いながらうつむいた。頬がほんのりと赤く染まっていく。達はそれをのぼせているのだと思って、慌てて手をとって外に誘導した。
「竣ちゃん、顔が赤いよ……のぼせたんだ、もうお風呂あがろう?」
「…………うん」
竣は少し寂しく思いながらも立ち上がる。ふら、と足がもつれた。咄嗟に達が腕を引っ張って、竣が転ばないように身体を支える。ばしゃ、とお湯が跳ねた。
気が付けば尻もちをついた達に、竣は後ろから抱っこされるような体勢になっていた。お湯で濡れて温まった素肌が重なって温かい。竣の心臓は、どく、どく、と脈打つ。
ちらりと達を見る。とても近くにいるのに、もう竣の目ではどんな顔をしているのか分からない。悲しくなった。そっと立ち上がろうとして、身をよじらせると……大きく膨らみ、勃ちあがった達の性器が脇腹に当たった。その脈打つような生命の熱さが竣の思考を奪う。
なんで? どうして、こんな風になっているんだ……竣には分からなかった。分からないからその腕の中から逃れようとするが、しっかりと抱きしめられていた。もう二度と離さないとでもいうかのような、強い力だった。
「好き……ずっと、初めて出会ったときから、竣ちゃんが好きだった」
「でも、もう竣ちゃんは結婚してて……すてきな奥さんがいて、かわいい子どもがいて……僕は、ただの友達で………………でも、ぼくはきみが、すきだ」
達の声が次第に涙交じりになって、言葉がたどたどしくなっていく。溢れる、ずっと胸に秘めていた思いが涙になって溢れる。竣の首筋を、骨の浮いた背中を、三十六度五分の温度の水滴が流れていく。
竣は自分よりがっしりした腕をつかんで、筋肉のほどよくついた背中を抱きしめた。達の身体がびく、と震える。どきどきと脈打つ心臓の音。
「俺も……君が、好きだ……」
「え…………でも、しゅんちゃん……おくさんが、こどもがいるよ……」
「…………二人の事も好きだ。でも、俺が一番最初に好きになったのは君なんだ、達」
大空に横に細くたなびいている雲の切れ間に、少し冷たい風が吹く季節。母親に手を引かれて挨拶に行った時に初めて二人は出会った。お互いに初恋だった。でも、それが恋だと気づいたのはずっと後。
浴槽で浸かりながら抱きしめ合って……いつしか唇が触れた。ちゅ、ちゅとついばむように何回か触れあって、気が付くと舌が絡まっていた。頬の内側の肉をつつき、歯をなぞり、舌がもつれあう。少しだけ怯えている竣の舌を達が外に連れ出して、口淫の要領で吸って、舐める。それはまるで小学校の時、手を繋いで道を歩いてツツジの蜜を吸ったときのように。
唾液がぽた、と湯船に落ちて水面に波紋を描く。すがりつくようにして、夢中で口づけをしていた。まるでこれが最後とでもいうかのような、貪るような激しいもの。
舌を絡め合いながら達は竣の鎖骨から胸元に手を滑らせ、乳首を指でつまむ。くに、くにと指で倒すようにしていじると、竣が身体を震わせる。おかまいなしに爪を立ててつねる。乳輪の周りを触れるか触れないかでなぞる。人差し指と親指でつまんでいじめる。
「…………んっ、んっ、んむ…………あっ……あ、あっ、あっ、あっ! だめ、そこばっかりだめっ……!」
竣が耐え切れずに唇を離すと、甘い喘ぎが漏れる。そのうちに竣の性器も勃って、達の性器と先端がちゅっちゅと触れあっていた。腰を甘えるようにこすりつけて、乳首をいじられながら女性のような声を出す竣。いつも真面目で固い竣が、妻帯者の竣が、浴室で友人に身体をまさぐられて腰を振っている。
達はぞくぞくとした。こんな竣ちゃんは僕だけしか知らない。
「ン……ねえ、下もっ、下もさわって……むずむず、するぅ……」
潤んだ瞳でおねだりされた。はしたない事を言う口を唇でふさいで、右手で性器を扱く。水面にとろりとした先走りの汁が溶けていく。ばちゃ、ばちゃとお湯が跳ねる。少し余り気味の皮を握って少し強めに扱いてやると、竣が身をよじらせて悦ぶ。
気持ちいい、もっと触って。ぐちゃぐちゃにして。口を塞いでいるけれど、たぶんそう言っているかのよう。
竣の目は、もうぼんやりとしか見えない。見えないからこそ、感覚は過敏になっていた。一面の乳白色の景色の中に、ずっと好きだった人がいて、気持ちの良い事をしている。それは今までに味わったことのないほどの多幸感。
手で触られるだけで、竣はあっけなく射精してしまった。まるで、子どものときに初めて自慰をした時みたいだった。それは世界が変わってしまうほどの気持ち良さ。
「はっ……はあっ、はあ、ああ……たつるっ、たつる……」
切ない声で達の名前を呼びながら……竣は心の中でひそやかに思う。
はっきりと見えないけれど、今、君はどんな顔をしているんだろう。記憶の中の達。穏やかで、いつも優しい顔をした、おっとりとした達。
そんな君の……人を抱く顔が、欲望に満ち溢れた顔が、性欲で我を忘れる顔が、一度でいいから見たかった。
もう見えない、二度と君の顔は見えない。
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