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鈴を転がしたような
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綾
さらさらとした音が俺の耳を掠めた、現在時刻は14時58分。あと20分もすれば退屈な生物の授業は終わるだろう。先生の目を盗んでちらりと窓を見やると、やっぱりだ……いやな予感っていうものは、大抵当たるように出来ている。黒板に向き直ると、誰にもバレないように青色吐息を肺から押し出した。雨だ。いつもなら鞄に入っている折りたたみ傘も、運悪く今日はお留守番している。少しの雨なら、歩を早めて帰路につけば良い……"あいつ"には申し訳ないが。あいつというのはお察し、クラスメイトの弥のことだ。もうそろそろ友達って呼んでも差し支えないのだろうが……何分あまり交友関係が広い方ではなかったもので、すこし照れが先行してしまう。もう一度目線を窓に移すも、ぱっと見霧のようにも見えるそれは、誰かの家の屋根を、学校の屋上を、草木を、余すところなく叩きつけている。雨粒が小さいのか、柔らかい音なのにかなり激しく降っていて、これでは帰宅と同時に雨があがることを望んでも無理があるだろう。さて、どうしたものか……なんて考えながらノートをとっていたら、早くもチャイムが鳴ってしまった。結局、なにも良い考えが浮かばなかったな……。とりあえず帰りの準備を済ませて、弥に声をかける。
「す、すまん……。今日、傘を忘れてしまって……」
バスに乗って帰らないか?そう口にしようとしたのも束の間、弥の声に遮られてしまった。
「あれ、それは困るね……じゃあ僕の傘に入って帰る?」
「えっ……そんなん、申し訳ないだろ……」
勿論嫌な訳では無い。むしろそうしてもらえると、俺としてはとても有難いのだが。
「そんなこと気にしなくていいよぉ!ほら、一緒に帰ろ?」
まるで花が咲いたような笑顔に、思わず釘付けになった。
弥
半ば強引に愛しの君の腕を引きながら、足早に廊下を歩く。髪はうねるし、足元は濡れるし、雨の日の移動に価値なんてそこまで感じてなかったけど、君がいるとなると話は別だ。それも、相合傘!これは大チャンスなのでは……?早速傘を広げて意気揚々と彼をみると、まだ少し申し訳なさそうな顔をしてもじもじと下駄箱の前で立っていた。
「ほら、はやく」
……なるべく優しい声で、しかし有無は言わせないような圧力も込めて。これは結構効果があったのか、おずおずと擦り寄ってくるのが堪らない。
「せ、せめて傘くらい持たせてくれ……」
「だーめ。てか僕の方が綾君より背ぇ高いんだから、僕に任せてよ」
「で、でも……!あ、肩も濡れてるじゃないか!俺の方に傾けすぎなんだよ!」
あ、バレたか。
「仕方なくない?可愛い子に風邪はひかせられないからね〜」
「はぁ?そ、それを言ったら弥だって可愛いじゃないか!」
「え、」
吃驚した、まさか綾君からそんな台詞が聞けるとは……ツンデレさんだなぁもう♡
「じゃあ、濡れないように……ね?」
華奢な肩を抱き寄せると、仄かに甘い香りがした。
綾
「じゃあ、濡れないように……ね?」
そう聞こえるが早いか、俺と弥の距離は5センチほど縮まった。抗議の声を上げようとしたが、
「相合傘してて2人とも濡れずに帰りたいってなったら、くっつくしかなくない?」
という弥の言葉には反論の余地もない。このまま大人しくくっついておくか……?でも、恥ずかしい……。そうこう考えているうちにも、心拍数は上昇するばかりだ。顔、紅くなってないか?不安になったから弥の顔を覗き込んだら、一瞬雨音すら聞こえなくなった。なんだよ、その顔……見たことないぞ。どんな顔してたかは俺だけの秘密だが、少なくとも勘違いしてしまいそうな顔をしてたことは確かで。あの瞬間が頭に焼き付いて離れないまんま上の空の会話を続けていたら、いつの間にか駅のすぐ近くに来ていたようだった。その頃には会話もかなり弾んできて、楽しいなぁ、なんて。ふと、鈴を転がしたような、耳に心地好い笑い声がした。声の主は勿論、すぐ隣のこいつ。あ、そう言えば……
「人の声が1番綺麗に聞こえるのは、雨の日の傘の中」
声に出ていたようで、弥は不思議そうに微笑んでいる。
「いや、なんとなく思い出したんだよ。人の声が1番綺麗に聞こえるのは、雨の日の傘の中らしいぞ?」
「へー、それ、なんで今思い出したの?」
「えっ、た、確かにな……」
言えるわけないだろ、あんまり綺麗な声だったから……とか。……駅に着いちゃう前に、もう少しだけ、
「そんなことよりも、この前のカフェ___」
もう少しだけ、な?
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