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一章 2
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レオとニコライは捨て子で、同じ孤児院で育ち、同時期に軍に入った。
レオは身体能力に優れていたが、神通力の扱いは下手で、二つ年下のニコライに直ぐに抜かされた。いつの間にか彼は、自分のずっと上にいた。
ニコライはそのずば抜けた優秀さから、周囲から孤立しがちだ。その容姿や能力は、周囲から一目置かれ、近寄りがたい存在とされてしまうのだ。
しかしその能力こそがニコライの自尊心を支えるもの。孤高の自尊心と他者への優越感、そのための向上心。それが彼の自我を形成しているのだ。
彼は自分の自尊心を守るために危険な任務を受けた。レオにはそうとしか思えなかった。任務を拒否することは、彼の強者としての自尊心が許さないのだ。
「馬鹿らしい……」
レオは一言、そう呟いた。
下らない自惚れなら、無い方が良い。レオはそう確信していた。
ニコライだっていくら強くて自分より階級が上でも、所詮はまだ若造。自尊心に縋すがって自己を保っている、人と関わるのが苦手な弱い存在。
明日彼は人間界に任務を遂行しに行く。今回の任務で痛い目を見たって、レオの知ったことではない。それで少しは学ぶこともあるだろう。ニコライも精神的な成長が必要だ。
しかしレオは、本気でニコライを止めなかったことを後悔することになるのだった。
————翌日、晩。
大浴場には二十人余りの男性の天使がいた。1日の訓練の汗を流す安らぎの時間。
レオは黒髪を洗って、大理石の浴槽の中へと入る。
その白い体は細身だが肩幅が広く、見事に鍛え上げれている。肩まである黒髪が白い肌に張り付いていた。そしてその背中の肩甲骨の辺りには、一対の赤い痣がある。
どの天使の背中にもその痣はある。それは遠い昔、そこに翼があった証。純白の翼は退化し、無くなってしまったという。
先に浴槽の中にいたレオと同室の茶髪の天使、ディーマ。
「お前そろそろ髪の毛切ったら?」
「ん?ああ……そうだなぁ」
髪を切るのを面倒くさがるレオは、伸ばしっぱなしにしてしまいがちだ。
「ま、気が向いたらな」
「いつか寝てる間に坊主にしてやらぁ」
「やれるもんならやってみな」
二人はそう言って笑った。一頻り笑うと、ディーマが急に真面目な表情を作る。
「なぁレオ、聞いたか?ヴィノクール特務曹長のこと」
「ニーカ……?」
「馬鹿、こんなところでそんな呼び方すんな」
会話を聞いていたらしい数人の天使が、レオを険しい目付きで見た。ニコライを信望する天使達だ。
ディーマは声を潜める。
「今日の昼間から音信不通らしい」
「は……?!」
「静かにしろってば」
レオの濡れた頭を叩く彼。
「まだ噂だが、今日ここに帰ってきてねぇことは確かだ」
「じゃあ救援か捜索部隊を出すべきじゃねぇか。あいつ一人って言っても、ただの兵じゃない」
「ああ、明日の早朝、兵を出すらしい。でも簡単に見つけられるかだな……」
「どういうことだよ。ミハイルの居場所はわかっているんだろ?」
「ミハイルの住む山には目隠しがかけられてるらしいんだ。ヴィノクール特務曹長は見破ったかもしれないが、一般の兵士じゃな……」
目隠しとは、魔力や神通力の術の一つで、物や生物などの存在をを他人に認識できなくさせるものだ。
レオは深刻な表情で俯く。
「……殺されたかも知れねぇ、ってことだよな?」
「縁起でもないこと言うな。あの人が簡単に死ぬはずねぇよ」
「そうだケドよ」
レオの黒い両目に、珍しく不安が浮かんでいた。
ニコライを嫌う素振りを見せつつも、彼はずっと一緒にいた幼馴染みだ。心配でないはずがなかった。
ディーマはそんなレオを見て呆れ混じりに笑う。
「信用してやれよ、でけぇ図体して小せぇ男だな」
「なっ、心配とかじゃねえし!」
「おう、レオにディーマじゃねぇか」
普段眼鏡をしている小柄な男がレオを見上げる。
「あい変わらずいい体してんなぁ、レオ」
そう言って彼は、レオの腰を叩いた。レオはその手を払って鼻で笑う。
「触んな。お前ゲイかよ」
レオの冗談に残りの二人は吹き出してそれにのる。
「ははっ、ゲイと同室には住みたくねぇなあ」
「違いねえ!」
「俺がゲイだって? 止めてくれよレオ」
「違うのかよ」
まだ言い訳しようとする小柄な天使は、もう一人の天使に浴場へ引っ張られていく。
苦笑するレオとおかしそうに笑うディーマは、脱衣場へ出ていった。
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