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二章 5
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「ねぇ、飲んでよ。何も入れてないってば」
「…………」
ニコライはシャツ一枚だけの姿で、両手両足を縛られ、手は頭の上でベッドに固定されている。ベッドの上で広がっている、乱れた長い銀髪。
彼の目の前に差し出されている珈琲の入ったマグカップ。その良い香りが寝室には充満している。
マグカップを持っているミハイルは、大きな瞳でニコライの顔を覗き込んでいる。
「喉渇いてるんでしょ?」
「…………」
「ご飯食べたくないなら別にいいけれどさ、飲み物は飲んだほうがいいと思うなぁ」
「…………」
「……あ、もしかしてブラック飲めない?」
「……っ、そういうわけではっ」
「え? そうなの?」
「悪魔から施しなど受けません!」
「もう、意地っ張りなんだから」
ミハイルはそう言って溜息を吐く。
ニコライはミハイルとの性交の後、直ぐに眠ってしまい、目覚めたらもう辺りは真っ暗になっていた。起きてすぐ隣にいたのは、珈琲が入ったマグカップを手に持ったミハイルだったのだ。
「高い豆挽いて淹れたから、美味しいよー。この珈琲」
ミハイルはその珈琲を一口飲んだ。
「うん、美味しい。コーリャがどうしても何にも飲みたくないっていうなら、魔力を使って直接君の体に水分を送るって方法があるけれど、そっちの方がいい?」
「嫌です」
魔力をこれ以上感じなければならないなど、天使のニコライにとっては酷い苦痛だ。彼は目の前で薄笑いを浮かべている悪魔を睨みつけた。
ニコライの口元にマグカップを近づけるミハイル。
「嫌なら飲みなよ」
「くっ……悪魔……」
苦々しい顔をしながらも、ニコライはその珈琲を飲んだ。豊かな芳香が口の中に広がり、続いて苦味を強く感じた。
ゆっくりと時間をかけて、そのマグカップの中に入っていた全ての珈琲を彼の喉に流し込んだミハイル。険しい表情のニコライに笑いかける。
マグカップをベッドサイドに起き、彼はニコライの首にかかっている認識票を手に取った。
「君、相当強いんでしょ?」
「……さあ」
「君だけで一般兵士の百人分くらいになる。違うかな?」
「…………」
ニコライは確かに、そう言われることがある。しかし神通力が使えないこの家では、彼にまともな抵抗もできない。
ミハイルの指に弄ばれる認識票は、部屋の蛍光灯の下でキラキラと輝いた。
「軍では皆から信頼される。でも人と関わるのが苦手な君は、皆と距離を置こうとしてしまうんだ。そして、自分を孤高の存在にしてしまう。そうでしょ?」
言いながら認識票を手放し、胸元に手を這わせるミハイルから、ニコライは嫌そうに目を反らす。
「勝手な妄想は止めてください」
「確かに勝手な妄想だけれど、当たってるでしょ」
「……私に、触らないでください」
「まだそんなこと言うの? もうセックスまでしちゃったのに。随分気持ち良さそうだったじゃない」
「…………っ」
何も言わないニコライの顔に、顔を近づけるミハイル。首筋に一つ、口唇を落とす。
「俺の話をしてあげるよ」
ミハイルは、ニコライの鎖骨の辺りを舐めた。手を握りしめるニコライ。
「聞かせてくれなんて言ってません」
「俺はね、小さい頃に両親を殺したんだ。っていっても、母親の方は殺すつもりなかったけれどね」
ニコライの返答は無視し、手を彼の胸と腹に行き来させるミハイル。
「俺は母親が大好きだった。愛していた。でも母親が愛していたのは、父親だったことに俺は気づいたんだ。それで俺は、父親が憎くなったよ。だから殺した。その時から俺は父親より強かったからね」
ミハイルの唇は、ニコライの首筋に口づけを繰り返す。
「母親は父親を殺した俺を殴ろうとした。俺はそれを防ごうとした。それだけだったけれど、その頃手加減の仕方が分からなかった俺は、母親を殺してしまった」
そしてニコライと軽く唇を重ねたミハイル。
「これを思い返していてね……、気づいた。君がどうしてこんなに魅力的に見えるのか。君は俺の母親に似ている」
ミハイルの話に、眉間に皺を寄せるニコライ。
「私はあなたの母親代わりですか? 女ですらない私は」
「……もし君が女だったら、母親そのものだ。きっと俺は正気を保ってなんていられなかった」
「もう狂ってるじゃありませんか……あなた」
「ああ、そうかもね。魔界を捨てて逃げた時、両親の死体と一緒に正気も置いてきたよ」
ミハイルはそう言って、その手をニコライの下半身へと伸ばした。性器はまだ柔らかい。
「ここに兵士は来るんだろうから、明日君を解放してあげてもいい」
悪魔の手は更に奥の、開口部を触る。
「やっ……」
「面倒な事は嫌いだからね。でもね、コーリャ。だからといって俺から逃れられると思わない方がいい」
「何を言って……うっ!」
指先が僅かに孔の中に侵入する。
「昼間ヤッたばかりなのにこんなにキツい」
「や、お止めなさい……あっ……」
「まだまだ、たっぷり愛してあげるよ」
ズッ、とミハイルの指は一気に奥まで入り込んだ。
痛みに呻くニコライ。彼を触る悪魔の手つきは昼間よりも乱暴に見える。
悪魔は自分の腰に手をやり、ズボンに挟んでいたらしい何かを取った。
「ほら、これ何だかわかる?」
翡翠の瞳の瞳が嗤う。ニコライに見せつけられたのは一丁の銃。
「…………っ!」
リボルバータイプ、ダブルアクションの拳銃。それはその悪魔を撃とうとしたニコライの愛銃――彼がファンタジアと呼んでいるものだ。
先ほど居間に落としたままにしたので、拾ってきたのだろう。
「その銃に触らないでください」
幾人もの悪魔を共に殺してきた相棒に手を伸ばそうとした。しかし体を拘束された状態では、どんなにもがいてもそれを取り返すことはできない。動こうとしても、ロープの締め付けに皮膚が傷つくばかりだ。
無駄に動こうとするニコライを、楽しげに嗤う悪魔。
「これで君は俺を撃とうとした。本当にできると思ってたの?」
悪魔は銃を反対に持ち、グリップで天使の顎を押し上げる。弾は入っていないが、僅かに残る火薬の匂いが嗅覚を刺激する。
「それは悪魔が触るものではありません」
ニコライがそう言うと、ミハイルは彼に口づけした。彼は顔を動かそうとするが、ミハイルの手がそれを阻止する。
唇を離し、彼の下唇を軽く舐めたミハイル。手に持っていたファンタジアを彼の首筋に押し付ける。
ニコライはいつも共に戦ってきた拳銃の冷たさを感じさせられる。
「その銃は私のものです。離してください」
「そんなにコレが大切?」
男の艶かしい唇が紡ぐ言葉。
「それじゃあ、俺よりもこの銃の方がコーリャは感じるのかな?」
耳元でそう囁かれたが、ニコライにはその意味が分からなかった。しかし、銃のグリップを顎から首筋を伝ってゆっくりと胸の方に下ろされていき、理解した。
固い銃のその感覚に、この悪魔がしようとしている行為に、ニコライは背筋が寒くなる。
「やめて、ください」
「今からコーリャが大好きなコレで遊ぼうか?」
それはあまりにも、信じがたい言葉だった。
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