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二章 8
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朝日が部屋に差し込む中、目を覚ましたニコライは目の前の光景に驚いた。
自分の目と鼻の先に、端正で美しいミハイルの顔があった。ニコライは直ぐにベッドから抜け出そうとしたが、彼に抱き締められていて抜け出せない。どうやら彼は目を瞑っているが寝てはいないようだ。
ニコライは自分がシャツ一枚しか着ていなくて、ちゃんと服を着ているのはミハイルだけだということにも気づく。こんなにも無防備な姿をこの悪魔に晒していたのか。彼の顔を見つめてどうしようかと思っていると、彼はゆっくり両目を開けた。
「おはよう、コーリャ」
「……放してくれませんか」
「もうちょっとこうしてたい」
テノールの甘い声。子供のように無邪気な若菜色の瞳。何故か彼のその態度には抵抗し難くなってしまう。
「…………」
しかしこの男は自分を犯した悪魔だ。ニコライはそう思い、そして昨夜の記憶が蘇る。自分が何をしたのか徐々に記憶が鮮明になり、今すぐ消えてしまいたいほど恥ずかしくなった。この悪魔の前で、自分の中を拳銃で突いて快感によがっていた。
何故あんなことができたのか、今ではよくわからない。自分の中にあんなにも強い性欲があったなんて知らなかった。誰かと性交をしたいと思ったことすら無いというのに。
ニコライの瞳を覗き込んでいるミハイル。
「何考えてるの? ニコライ」
「な、何も」
「嘘。昨日の夜のこと考えてた」
「…………っ」
「気持ち良かったんでしょ?」
ミハイルの左手がニコライの背中から下に移動し、尻を撫でた。その手つきにゾッとするニコライ。
「は、離れてくださいっ」
腕の中で身じろぎするニコライをミハイルは抱きしめる。
「何にもしないよ」
彼はそう言ってニコライの胸に顔を埋めた。
本当にそれ以上何もしないでニコライを抱くミハイル。ニコライは諦めて大人しく彼に抱かれながら横目で部屋にある掛時計を一瞥した。午前八時三十分。天界軍基地の起床時間は既に過ぎており、もう活動が始まっている時間だ。
救援部隊はここ、人間界に下りているだろう。しかし目隠しの術がかかったこの山は簡単に見つけられることはないはずだ。ニコライですら破るのに半日かかった術。一般兵士ならばさらにその倍以上の時間は必要だろう。
ニコライの胸から顔を離して彼を見上げるミハイル。
「天使がさ、ここの山の近くにいるんだ。二十人くらい」
突然、心を読まれたかのように彼にそう言われ、ニコライは目を見開いた。
「救援部隊……ですか?」
「そうなんじゃない? そう簡単に俺の目隠しは破られないと思うけれど、明日にはバレるかもね」
「どうするんです? 彼らが来る前に私を殺しますか」
「さぁね」
他人事のように返事をするミハイルに、口を噤んだニコライ。おそらくこの悪魔は、本当は何か考えているのだ。その考えを全く見抜けないのが悔しい。
「ねぇ、なんでコーリャは特務曹長なの?」
「はい?」
唐突なミハイル質問に、ニコライは片眉を上げる。ミハイルは本当に不思議そうに聞いてくる。
「だってそんなに強くて頭もいいのに少尉ですらないなんて、おかしいじゃない。いつから軍に入ってたの?」
「……六年前からですが……階級なんてそんなもの、どうだっていいでしょう」
「そうかな?」
「少なくともあなたには関係ありません」
「冷たいなぁ」
ミハイルからの質問よりも、救援部隊のことの方が余程気になっているニコライ。
救援部隊は二十人程度だとミハイルは言っていた。誰が来ているのだろう。自分がここに来るのを止めようとしてくれたレオや、彼の親友のディーマはどうしているだろうか。特にレオは自分を心配しているかも知れない。救援部隊にいるのかも知れない。
レオには救援部隊にいて欲しく無い。確実にこの最強の悪魔には勝てないし、レオが殺されて自分が生かされるなどということがあっては本当に嫌だ。
基地の天使にはもう顔向けできない。悪魔と性交したこの躰を再び天界に戻すこと自体を汚らわしく思う。
幼なじみであり自分の唯一の親友のレオは――自分が唯一心を開ける彼は、こんな汚れた自分でも受け入れてくれるだろうか。いつも通り接してくれるのだろうか。他人のことはどうでもいいと思っていた。しかし今、これまでに無いほど危機的な状況に陥り、レオのことだけは考えると切なくなる。
「コーリャ」
ミハイルが黙っていたニコライの愛称を口にした。いつもより少し低いトーンの声に、ニコライはその悪魔を見下ろした。悪魔は彼を睨むようにこちらを見上げていた。
「今、何考えてた?」
今までとは違う鋭い彼の目つきに、ニコライは戦慄した。
「……あなたに話す義務はありません」
そう答えたニコライに、ミハイルは彼を抱くのを止めて体を起こす。そして彼を仰向けにし、その腹の上に馬乗りになった。
「誰か、俺意外の奴こと考えてたでしょ」
「誰のことを考えてようと私の自由でしょう」
恐怖を押し殺してそう応えたニコライ。ミハイルは彼に顔を近付け、その美女桜色の両目を覗き込む。
「誰のこと考えてたの? 俺といるのに他の奴のこと考えるなんて、最悪だ」
「あなたには関係ない」
ニコライが言った直後、ミハイルは彼の顔の左側面を平手で殴った。高い音が寝室に響く。
「俺だけを見てよ。君を愛してるんだ。君も俺を愛して」
「……っ、ふざけないで、ください」
尚も反抗的な言葉を返したニコライ。頬ではなく顎骨のあたりを殴られたので、痛みはあるが際立って腫れることはない。ミハイルはニコライの顔には傷を付けないのだ。
「殴りたければ殴りなさい。私はあなたのことなんて絶対に愛しませんよ」
反抗的なニコライの態度に、何を思ったのか頬を緩めたミハイル。
「素敵な目だね、コーリャ。生きてるって感じがする」
そう言って、赤い唇をニコライの唇に重ねた。優しい口付けだった。
「少し面倒くさいことをしてでも、君が欲しい」
「面倒くさいこと?」
ニコライが聞き返したが、ミハイルはそれについては答える気がなさそうだ。ただ笑顔を返した。
「ご飯、食べようか?」
そしてミハイルは、ニコライに手錠を付けた。
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