アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
三章 6
-
ニコライの部屋の前に立つレオ。右手には部屋の鍵が、左手にはニコライの物が入ったバッグが握られている。鍵は先程上司から受け取ったもので、荷物を部屋に置きに行くように言われたのだ。
四人部屋の自分とは違い、個室に寝泊まりしているニコライ。長い付き合いながらに、レオが彼の部屋に入るのは初めてだ。腹を据えて、レオは部屋の鍵を開ける。ドアノブを下げて押すと、音もなくドアは開いた。
「…………」
物の少ない、整頓された部屋。机の上には分厚いファイルや本が並んでいて、無造作に出ている物は何もない。子供の頃から変わらない、あまりにもニコライらしい部屋で、レオはつい吹き出しそうになった。
少しは変わったっていいのに、と思いながらレオはドアを開けたままニコライの部屋に足を踏み入れた。あの天使の変わらない頑なさ。それは彼が成長していないとも取ることができる。そんな彼にも少しレオは不安を感じるのだ。
机の横にバッグを置く。そのまま引き返せばいいのだが、何となく足を止めてしまったレオ。
先程報告しに行った上司、恐らくニコライに任務を言い渡した大佐との会話を思い返す。
――ヴィノクール特務曹長は行方不明だった二日間について何か話したかね?
――……いいえ。
――話せる様子ではないのかね?
――話はできますが……。
――では出来ることなら聞き出して君が報告してくれ。
――了解です。
何故自分が、とは思ったが、恐らくあの大佐も自分が一番ニコライにとって話しやすい相手だと思ったのだろう。ニコライ自身が目を覚まして最初に会いたいと言ったのは自分なのだ。
しかしレオは大佐に本当のことは言えなかった。ニコライが、悪魔に強姦されたことを。ニコライも言われたくないのかも知れない。これは、できるならば彼自身の口から言うべきことなのだ。
あの高潔な天使が悪魔に犯されるなんて、どれだけショックなことだっただろう。彼はレオの知る限り恋人もいたことがない。女性に人気はあるが、恋人ができたという様子は見せたことがない。
彼を犯した悪魔のミハイルにどうしようもなく怒りを感じる。
その時、開いたままのドアをノックする音がして、レオは少し驚いて振り返る。
「モローゾフ中尉……」
部屋の前にいたのは、モローゾフ中尉だった。彼は一歩部屋に足を踏み入れる。
「クルツ伍長、ここはヴィノクール特務曹長の部屋……ですよね?」
「ああ、はい。荷物を置きに行くように言われたもので」
「そうでしたか」
あと数歩、前に進んで部屋を見渡すモローゾフに、レオ。
「中尉?」
「ああ、すみません。明日ヴィノクール特務曹長と話をするように言われたんですよ。ここで部屋を見れたのは幸運です」
「話、ですか」
そういえばモローゾフは精神科医としての知識が豊富である。カウンセリングのようなものだろう。
「えっと、よろしくお願いしますね」
そう言ったレオに、微笑するモローゾフ。
「ええ。……それにしても、生活感の無い部屋ですね」
「ん、ああ……そうですね。こいつの部屋、昔からこんなんッスよ」
「そうなのですか?」
部屋の中を巡っていたモローゾフの視線がレオに戻ってきた。刹那、レオは彼に僅かな違和感を感じた。
モローゾフ――かなりの長身の自分よりもずっと低い背丈、金色の短い髪、鮮やかな若菜色の両目、非常に整った顔立ち。何かが違う。この男の印象は、こんなものだっただろうか。
自分の顔をじっと見てくるレオに、モローゾフ。
「どうかしましたか?」
「あ、いや……中尉、なんか変わりました?」
「はい?」
怪訝そうに眉を眉間に寄せる彼に、レオ。
「すみません、なんか中尉がいつもと違う気がしたんで……。気のせいッスよね」
「……ええ、何も変わっていませんよ。それでは、もう行きますね」
「はい」
そしてレオがいるニコライの部屋を後にしたモローゾフ。部屋を出て何歩か足を進めたところでニコライの部屋の方を一瞥する。
「どういうこと?」
呟いて、歩きながら彼は表情を険しくした。
「何であんな、低レベルな天使が……」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 70