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四章 5
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ディーマは、レオのベッドの上に座っていた。もう片方の二段ベッドには小柄で眼鏡の天使と、金髪の大男が眠っている。
この部屋の四人の中では一番の早起きのディーマ。いつも通りに起きて、レオを起こそうとしたら、そこはもぬけの殻だった。レオの行き先は簡単に予想できる。彼がわざわざ早く起きて行きそうなところなんて、ニコライの所くらいしかない。
徐々に窓の外が明るくなってきて、ベッドに座り込むディーマの短い茶髪が照らされる。彼はそのベッドにいるはずだった男との記憶に、想いを馳せる。
「レオ……」
――レオ! またお前かぁ?
――先輩……! だってこいつが!
――言い訳すんな。喧嘩両成敗だ。
そう、あの頃のレオは今よりも更に血の気が多くて、喧嘩ばかりする少年だった。彼には色々と手を焼いたものだ。
というのも、士官学校の訓練生だった時から、レオとディーマは同じ小隊にいた。今はレオが伍長、ディーマは軍曹という階級になったが、実力の差は無きに等しい。
それでもレオが今よりも上の階級になるのは難しいだろう。
「……悪魔、クルツ…………」
悪魔、混血のレオ・クルツ。それは本人も認識している、陰で囁かれるレオの噂。
噂のきっかけとなったのは、六年前の紛争。
――レオ、大丈夫か?!
――あ、ああ……。
――おいおい、よく生きてんな……、直撃だっただろ。
――はは、何でだろうな。……痛ぇ……。
六年前、天使と悪魔の小さな衝突があった。
天界と魔界の間には、間界(かんかい)と呼ばれるところがある。荒れたその土地は、貧しい天使と悪魔が住む場所で、両者の小競り合いが後をたたない。
その六年前の戦場に二人はいて、その時レオは悪魔の軍人から魔力による攻撃を受けた。しかし、普通なら致命的な程である攻撃だったにも関わらず、レオは致命傷を受けなかった。
悪魔への魔力による攻撃、天使への神通力による攻撃は、効果がだいたい半減される。レオは効果が半減とまではいかないが、魔力による攻撃に対する耐性が強い。
そしてレオの神通力を扱う能力は、訓練を受けた軍人としては異常に低い。とうに軍曹以上の階級を手にできるくらいの身体能力を持っているレオは、神通力の扱いの下手さでかなり損をしている。
それらのことから、レオは悪魔と天使の混血なのではないかと噂されている。しかし実際、それは彼自身にも分からないのだ。彼は孤児院育ちで、捨てられたのは赤子の時なのだから。
――なあ、レオ。お前……自分がどこで拾われたのかも知らないのか?
――あ? ……間界らしいケド、それが?
――間界?
――そう、丁度戦争中だったらしいぜ。
――……そうか。
――ディーマ?
――いや、何でもねぇ。
――疑うのか? お前も。
――……違う、レオ!
あの後、レオは言っていた。可能性は無いわけではないと。しかし悪魔ならば体内の魔力でわかるし、レオの体内からは神通力が感じられる。混血だとしてもクォーター程度で、ほとんど普通の天使と変わらないはずだ。
天使として生きている彼が混血だ、悪魔だと詰(なじ)られるなんておかしな話だ。彼が何をしたというのだろう。
――自分が混血だなんて思いたくないけれどよ……、もし本当に混血なら、嫌われても仕方ねぇよな。
――お前は天使だ。混血なんかじゃねぇし、嫌われんのはおかしいだろ。
――おかしくねぇよ。俺達天使が何と戦争してるか、考えれば。
――レオ……。
あの時のレオは、普段の彼からは考えられないくらい大人びた表情だった。諦めを知った、大人の顔だった。
彼が混血かそうでないかという真実は明らかにされていない以上、表立って彼を詰る者はいない。しかしあれから六年経った今でも、その噂は根強く残っている。
「でも、お前は天使……だろ?」
例え混血であったとしても、レオは天使に育てられ天使として生きてきた、天界軍の軍人だ。
ディーマはレオのことが好きで、信頼していた。彼が彼である限り、ディーマが彼を嫌うことはないのだ。
「……ディーマ?」
唐突に男の声がして、ディーマは顔を上げる。
声がした方を見ると、小柄で眼鏡の天使が不思議そうにこちらを見ていた。今起きたらしい。
「どうかしたか?」
「い、いや……何でもねぇよ」
「レオは? いないのか?」
「ああ、多分ヴィノクール特務曹長のところに行ったんだろ」
「ふぅん」
ディーマはそそくさとレオのベッドから降り、金髪の大男のベッドに近づく。
「早くこいつも起こさないとな」
そうして、ディーマの一日は始まった。
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