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昼夜問わず
四月最終週、金曜。オフィスのブラインド越しに見える窓の外がうっすらと夕焼けの赤から夜気の紺に染まりだした頃。
「ええ~っ!!」
白を基調としたオフィス。列として向かい合った左右のデスクに一つずつノートパソコンと電話が置かれている。そんな無機質な列が幾つも並ぶフロアは終業時刻過ぎとあってか、人影は疎らだった。
「ちょっと待って下さい、課長っ!!僕、もう帰る時間なんですよっ!!」
悲壮な声を上げる男…ひょろりとした体格に短い茶髪。軽薄な雰囲気で、いつもは笑顔がトレードマークの彼は、見るに堪えないほど、辛そうにぐしゃりと顔を歪ませていた。首からかけたネームプレートには、『宵宮美月』と記されている。彼…宵宮より頭三つ分は小柄な井山課長は口をへの字にひん曲げた。二人とも、宵宮のデスクのすぐそばに佇んで喋っていた。
「宵宮!!元々は君のミスが問題なんだぞ、それに明日までが期限の資料だ!!加えて言うなら、君は明日有給をとっているじゃないか!!」
うぐ、と宵宮は言葉に詰まる。
「それは…そうですが…。」
尻切れトンボになっていく宵宮の声に、相手は勝ち誇ったように告げた。
「どうしても今日帰りたいのなら、明日の休みを返上してもらわないとなぁ!?」
「…っく。」
奥歯を強く噛みしめる宵宮に背を向け、井山は高笑いしながら自らのデスクへと帰っていく。…おそらく、帰宅するために、だ。
「資料のミスを修正しなおしたら、私のデスクに印刷したものを置いておくこと。…いいね??」
「がるるる…。」
井山に聞こえない程度に、声を押し殺して威嚇する宵宮だった。
「…畜生。」
小声で呟きつつ、椅子に腰かける。一度パソコンと向き合った後で、深く俯き、こっそりとデスクの下に忍ばせた手を見た。手には、携帯が握られていて画面に映るのは、一件のメールの文面。『今日は、大切な話があるから早く俺の家に来て。千暁』とある。宵宮は自身の口角がだらしなく下がっていくのを感じた。
(そう。今夜は、僕が恋人の千暁のうちにお泊りデートする日♪今日の昼、急にメールが来て千暁からは何か特別な話があるっていうしィ~??そ・ろ・そ・ろ…華の同棲生活スタートかもな!!)
口元を手で覆い、顔が見られないようデスクに突っ伏して、宵宮は小さく肩を揺らして笑う。
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