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「ハグはしてくれんのにキスしてくんないの」
「…………かがめよ、馬鹿。届かねェんだよ」
小さく舌打ちして悪態をつき、襟を掴んで引き寄せる。こんな情けない台詞、言いたくなかったのに。なにか、からかわれるかと思ったけど、ちょっと笑っただけで、シャーロットはさっさと唇を近づけてきた。
女とは違う。
「………っ、」
首の角度も苦しいし、甘い匂いもしない。ときめきもない。図体のデカい化け物がじゃれてきてるようなもんだ。乾いた唇を重ねて、それが徐々に湿ってきて、気持ちがほどける前に、おれは相手をやんわり突き放す。
「………………………風呂入るってば」
「お湯溜まるまでの間」
シャワーでいいんですが。
向こうはやめるつもりないらしく、おれの腕を掴んで浴室に入る。シャーロットがバスタブの縁に腰かけて、浴槽の蓋を落とし、蛇口をひねると、勢いよく水が出て、それはすぐに湯気を出し始めた。たかが諜報員の部屋だ。男二人が入っても余裕のあるほど広い浴室ではなくて、眩しいだけの照明にムードもへったくれもない。これでいいでしょ? って顔をしてシャーロットがおれを見上げる。良くな………………別にいいか。どうせ溜まるまで五分もかからないし。
普段の仕返しとばかりに、そのツラを上に向かせてしてやろうかと思ったけど、こいつのことで頭を使うのも馬鹿らしくなってやめた。おとなしく待ってるシャーロットの頬に触れて、唇を重ねる。まったく動く気がないのは、おれからたくさんしてほしいんだろう。こんなので機嫌取れるなら安いもんだ。
こいつの身体のうち、どこまでが本物なんだろう。おれの好きな濃い青色の瞳。それから? 髭の生えない頬は? この唇は? 薄い金色の髪を撫でてやる。ピアスの痕もない耳とか。よく見ると傷の多い、手の甲だとか。目を閉じててもこいつの見た目はよくわかる。女の惚れそうな肩と、時々頼もしい背中。お互い、いつまで生き残れるんだろう。どっちかがあっさり死んでも、意外性はない。
何度かしているうちに、うっかり舌を入れそうになった。
「……………っ、………あ、」
慌てて離れる。いつもの手順でキスしてどうする。向こうもちょっとびっくりしてた。
「今、」
「違う。今のは。間違えた」
「間違い?」
「……………………」
そうだよ。間違えたんだよ。うるさいな。お湯もだいぶ溜まったし、こんな変なことは終わりにしよう。
「もう一回」
「出てけ」
「やだ」
「水ひっかけるぞ」
「やだ」
冗談じゃないからな。レバーを反対方向にすると、壁にかかっているシャワーから今度はお湯が降り注ぎ、丁度シャーロットに直撃した。してやったり。大声で驚くシャーロットを、面白がって見てたら、また腕を掴まれた。
「わ、……馬鹿、おい、」
「先にしてきたのそっちじゃん」
あっという間に、おれの服も頭も濡れてく。冷水にしなくてよかった。……ガキの喧嘩かよ。顔を拭って睨んだら、青い瞳がこっちを見て笑ってた。
「…………」
だから、頼まれてもないのにおれは唇を重ねた。こいつは可哀想な人だから、おれは暇潰しがてらに同情している。そうじゃなきゃ、頭のイカレた裏切り男に優しくする義理がない。
義務はある。どうも組織はこいつを手離したくなくて、そのための駒がおれで、おれは任務を忠実にこなしているに過ぎない。
なんで胸が苦しいんだ。
「…………っ、無理。もう一回」
キスしてたらやっぱりその先をしたくなって、仕切り直す。やめるんじゃなくやり遂げたい。ゲームしてる感覚で、負けず嫌いの心が疼く。
「リンのえっちー」
「うるさい」
だいたい、なんでお前は平気なんだよ。無意識に、ついやってしまうはずだ。される側じゃなくする側に回ってみて、初めて知ったけど、なんの進展もなくただ重ねるだけのキスを延々続けるなんて芸当は、なかなか厳しい。今度は誘うように口開けてきたから、その手には乗るかとシャーロットの下唇を噛んでやる。ばーか。
『そういうキス』じゃないから、むこうだってしてこなかったのに、なんでおれがしたくなんなきゃいけないんだよ。それで更に、どうして今、我慢しなきゃいけないんだ。さっさとその口に舌捩じ込んで犯したい。畜生。
「…………っ、」
キスに夢中になってたら、二人とも滑りそうになった。あっぶね。何やってんだろ。シャーロットが服のまま浴槽に浸かって、おれを引きずりこむ。なんか言う前に口は塞がれて、舌を吸われた。
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