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「日本人はこの辺りにはいないさ。もっとマシなのを勉強しなよ」
それでもと頼みこむと、ようやく教えてくれた。タノシイヨ、タノシイヨ。ヨッテラッシャイ、ミテラッシャイ。
「あんた、発音上手だね」
褒められた。リンがよく譫言に呟いてる、無理とか駄目とかってどういう意味なのだろうと聞いてみたら、無理とか駄目とかだったので俺は落ち込んだ。
まあね。
そりゃね。
毎回、泣かせてるし。
簡単に泣くような男じゃない。ってことは、相当嫌がることを俺はしてしまっているんだろう。あーあ。ちょっと、立ち直れないかも。あからさまにぐったりとした俺を見て、よく商売を却下されるのだろうと勘違いしたジローは、慰めてくれる。ありがとう。そういえば、ありがとうってなんて言うんだろう。
ありがとう。好き。大好き。私はあなたが好きです。愛してる。物覚えのいい頭はすぐに吸収する。それから、もうひとつ。
「日本語には甘味に例える言い回しはないからなあ」
そっかあ。やっぱり、無いのかあ。
「スキ」
「んー?」
「スキ」
「………………………な……………えっ?」
ある夜、リンに言ってみた。日本語としてなかなか捉えてはくれず、発音が違うのかなあと思う。いや、教わった通りのはずだ。リンは寝る前の柔軟をやめて、まじまじと俺を見た。いぶかしんでた顔に、じわじわと笑みが広がっていく。思い違いじゃないです。日本語です。自分のベッドであぐらをかいてた俺は、両手を広げてもう一度好きと伝える。思いの外、喜んで飛びついてきた。髪をわしゃわしゃとやられる。頭撫でてくれる。俺も嬉しい。
「なんだよ、誰に教わったの?」
「内緒」
「シーラ? ケヴィン? ユーリ?」
ちょっと待て。そんなに日本語分かる奴、この組織にはいたのか。知らなかった。近場で教われたのか、俺は。でもなんか、そいつらに聞くのはやだな。
「内緒」
リンが声をあげて笑うから、俺は本当に嬉しくなる。よかった。笑ってくれた。
「もう一回言って?」
「好き」
また喜んでくれる。俺はまるで芸を覚えた犬みたいだ。良くも悪くも、そう思う。
「リンは?」
「おれも好きだよ」
like かよ。まあいいや。嫌われてないのが奇跡みたいなもんだ。その夜、リンは俺と一緒のベッドで眠ってくれた。いっそ動物にでもなってしまいたい。言語のやり取りが出来ない生き物になら、きっとリンはずっと優しくしてくれるし、笑ってくれるから。
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