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rev .22
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時は少し遡る。大悟達より早く現場を出たシラサカは一足先にホテルへ到着していた。
「ケイちゃん、大丈夫?」
本当はタクシーに乗りたかったが、交通規制と他の事情もあったため、人の少ないところではダッシュ、多いところは早足という状態を続けた。そのため、カズミの部屋に到着した頃には盛大に息が切れていた。
「カズミ、水を、くれ……」
「そない急いで戻らんでもよかったのに。大悟達は一緒とちゃうんか?」
カズミは冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ついでにタオルも渡してくれた。言うまでもなく、シラサカは汗だくだった。
「ハニーは、マキとオッサンと一緒だ。その前に、話をつけとかないと、な」
タオルで汗を拭き、冷たい水を一気に飲み干し、心身共にクールダウンした。この場にカズミを置いておくべきか否かを考えて答えを出すと、シラサカは彼の腕を取り、自分の側に置いた。すぐさま隠していた拳銃を取り出し、クロードに銃口を向ける。
「ちょ、ケイちゃん!?」
驚くカズミを無視し、シラサカは目を丸くするクロードに問いかけた。
「質問にイエスかノーかで答えろ。おまえは俺の、いや、俺達の敵か?」
「ケイちゃんが信じ切れんのもわかる、そやけど今のクロードは──」
「おまえは口を出すな。俺はこいつに聞いている」
シラサカは厳しい口調で言い放ち、カズミを黙らせた。
「今の俺はエーデルシュタインのZだ。Zの任務はKの動向を見守ることだけ。よって答えはイエスでもノーでもない」
クロードはきっぱり言い切った。
「それがおまえの答えか?」
「そうだ」
念押ししても、クロードは答えを変えなかった。
『いいだろう。シラサカ、警戒を解け』
どこからか聞こえてきたレイの言葉で、ピンと張り詰めた空気が緩む。カズミがきょろきょろと周囲を見渡したので、シラサカはポケットに入れていたスマートフォンを彼に渡した。言うまでもなく、画面にはレイの顔が映っている。
「なんや、ナンバー3の指示かいな。クロードを疑う理由はなんや?」
『ホテルで起きた銃乱射事件の犯人が、エーデルシュタインの名を口にしたからだ』
カズミの問いかけにレイが答える。シラサカがタクシーに乗らなかったのはレイに事情を話すためだった。クロードへの質問も、彼に銃口を向けたのも、レイの指示によるものなのだ。
カズミの前でバラすことにならなくてよかったぜ。
クロードの返答次第ではその場で処分という話も出ていた。そのため、シラサカは事前に自室に立ち寄って実弾に入れ替えていたのだ。
「君達の活躍でAとJとSが消えたのは事実だが、補充があったという話は聞いていない」
『おまえの耳に入っていないだけじゃないのか?』
レイが言った。
「その可能性はあるが、コードネームに変更があれば、コードネームを持つ者に全員通達がいくようになっている。遅かれ早かれ、俺にも連絡が来るはずだ」
クロードの言葉を信じるならば、組織絡みの案件ではないことになる。
さっきの連中が組織のメンバーと関わりがあるのなら、俺のことを知らないはずはないよな。
「確認が必要であれば、今ここで連絡を取るが?」
疑いを晴らしたいのか、クロードから提案してきた。
『連絡を取る前にひとつ聞きたい。おまえ、医学の知識はあるか?』
「ある程度のことなら」
『そうか。薬学全般はどうだ?』
「有名処の毒薬についての知識程度くらいだな」
『そういうことなら使えない。藤原、桜木の生き残りにツテはあるか?』
レイはクロードの回答をばっさり切り捨てた。彼の味方をするわけではないが、あまりの非情さに内心同情するシラサカだった。
「いつでも頼ってええ言われてるから、大丈夫と思うけど……」
カズミの祖父は桜木組というヤクザの組長だった。暴力団改正法が施行される前に組は解散しているが、元組員達はカズミのことを気にかけており「坊っちゃん」と呼んで慕っていた。
『今すぐ連絡を取って、腕の良いモグリの医者か薬学の知識に秀でた者を大至急連れて来させろ』
「は? 今すぐ?」
カズミは目を丸くした。
『そうだ。こちらから手配するとなると、どんなに急いでも明日になるからな』
「今の状況で、医者を呼ぶことなんてあるのかよ」
あまりの急展開にたまらず口を挟むシラサカ。
『てめえだよ! 乱射事件の犯人に注射器ぶっ刺されたんだろうが!?』
レイの言葉を受け、シラサカはカズミとクロードから驚きの目で見られた。
「そういや、そんなことあったっけ」
完全に忘れていた。シラサカは頭を掻いて笑ったが、カズミとクロードは厳しい顔になる。
「そういうことなら、大至急なんとかするわ。もうちょい辛抱してな、ケイちゃん!」
カズミはスマートフォンを取り出し、どこかに連絡を取る。クロードも同様に電話をかける。ひとり取り残されたシラサカはたまらずこう呟くのだった。
「いや、俺、めちゃくちゃ元気だけど」
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