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突然
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「点呼!」
開けたままの窓から、作業部屋の号令が風に乗って聞こえてくる。
今日は受刑者の移送の立ち会いが早く終わったから、あとは夜の見回りまで待機していればいい。ふと手持ち無沙汰になった俺が棚から取り出したのは、受刑者名簿だった。
分厚いファイルは、受刑者番号がそのままページ番号になっていた。当たりを付けてページを捲ると、197ページが現れる。さらに1枚、紙を捲る。
受刑者番号、199番。本名、征木敏嗣。
「……」
その名前を見て、俺は息を呑んだ。しばらく見つめてから、嗣という文字を指先でなぞる。
(ツグって、本名だったのか)
受刑者の写真欄では、不服そうな表情のツグがこちらを睨んでいた。滅多に見れない、正面からの顔。慣れた感情が体中を駆け抜け、心臓が早鐘を打つ。
略歴として前科の罪状も記されていたが、俺にとっては何でもよかった。写真の中の彼と見つめ合っているこの時間が、彼の名前に触れているこの瞬間が、押し殺していた想いをほとばしらせていく。
「……っ」
どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。想いの先に道などないくせに。それは誰よりも自分がよく知っているはずなのに。何度自分に言い聞かせても、もうどうしようもなかった。一度好きだと自覚してしまったら、何をされても諦められなかった。
抱かれてからは、さらに気持ちは募るばかりだった。畏怖の対象でしかなかったはずの冷たい男。そんな彼の体温を知れたことは、このうえない喜びだった。
ツグは何とも思っていないだろうけど。それでも、俺は――。
「おい。寝てんのか?」
突然の声に、ビクリと肩が震えた。振り返れば、看守室の扉を背にして、受刑者の一人がこちらを見下ろしていた。今は作業中のはずなのに、どうしてここにいるんだ。疑問は声にならず、ただじっと男を見つめてしまう。
男の顔を眺めているうちに、見覚えがあることに気付いた。いつもツグと一緒にいる受刑者の一人だ。
俺の表情に何かしら浮かんでいたのか、男は口の端を上げて笑った。
「言伝だ。ツグさんが呼んでるぜ。……アンタなら、この意味わかるだろ?」
柔らかな斜陽が差す、静かな夕方。ドクン、と音を立てて心臓が跳ねた。
* * * * * * *
案内されたのは、今はほとんど使われていない一室だった。以前は作業部屋として使われていたが、壊れかけた什器や備品の一時保管所となってからはただの倉庫と変わらない。
先に入った男は、慣れた様子で部屋の一番奥まで進んだ。俺も後に続く。
しかし、そこには誰もいなかった。目線を泳がせる俺を見て、男がげらげらと笑い出す。その声はどんどん大きくなっていき、部屋中に響く不快な嘲笑に変わった。不穏な空気に自然と眉が寄る。
「見かけによらずおめでたいやつだな。ツグは来ねえよ」
「……え?」
「やる気だったのか? まだ陽も落ちてねえってのに」
身も蓋もない言い方に身構える。男は相変わらず嫌な笑みを浮かべている。
「アンタ、ツグとセックスしてんだろ?」
「な……」
動揺を肯定と受け取ったのだろう、男が下品に笑った。
「アンタの穴、俺らにも使わせてくれよ」
――これは罠だ。騙されたんだ。そう気付いた時には、新しく部屋に入って来た数人の男たちが後ろ手に鍵を掛けていた。
「やめっ……」
一斉に伸びてくる手は、地獄への誘いのようだった。不躾に見つめられ、髪を掴まれ、制服を剥ぎ取られる。無残な姿になった俺に、古びたロープが投げられる。
「おい、これで手足縛っとけ」
下着も脱がされた裸体に、ギチ、と音を立てて縄が食い込んだ。自由を奪われた俺に向かって、煙草の匂いのする口が、濁った舌が、汚れた指が迫ってくる。
逃げようと体を捩ると、両側から迫る別々の手に足を開かされた。露わになった自身が男たちの前に晒される。これから起こることを知り、底知れない恐怖に体が震える。
「はっ、綺麗な顔しててもやっぱり男なんだな。まあ、アンタの場合はついてる方が興奮するよ」
「誰から突っ込む? 俺、最初がいいんだけど」
「じゃあ慣らすのもお前がやれよ。すぐグズグズになるだろうがな」
「そう怖がるなよ。これから気持ちいいことしようってのに」
「アンタも好きなんだろ? ツグさんだけじゃ足りねえんじゃねえの?」
想い人の名前を出されて息が詰まる。理解が追いつかない状況で、何も考えられなくなる。
「よかったな。アンタの大好きなものが五本もあるんだ。一緒に楽しもうぜ」
そこからは本当の地獄だった。男の性器が無理矢理口にねじ込まれ、舌を這わせろと命令されたことを皮切りに、無数の手が凌辱する意志をもって近づいてきた。
耳を噛まれ、胸の突起を弾かれ、乾いた手で自身を擦り上げられた。ローションの代わりだと言って精液をかけられ、慣らされることもないまま無理矢理犯された。知らない男の性器に突かれる嫌悪感と、気持ちの悪い舌で全身を舐め回される感触が恐ろしく、嫌だと叫ぶと殴られた。
体が反応してしまうと、男たちはさらに粗暴になった。下賤な言葉で煽られながら口内に舌を入れられ、濡れた肌を吸われ、胸の突起を舐められ、代わる代わる犯された。体の奥深くで何人もの精液が混ざり合い、腰を打ち付けられる度に聞きたくもない水音が耳を犯した。
動物のように四つん這いにされ、調教の真似事のように臀部を叩かれた。挿入されてからも面白がって何度も叩かれ、酷くするとよく締まると笑われた。そのまま射精すると犬のように鳴けと命令され、何も答えずにいるとまた殴られた。
暴力を伴った狂った性行為は、消灯時間を過ぎても終わらなかった。周りを囲まれ、四つん這いのまま全員の性器を舐めて回るよう命令された。男たちに呼ばれ、萎えた性器を勃起するまで咥えさせられた。やがて再び昂りだした男たちの性器で、また次から次へと犯された。
無慈悲な世界で、俺は何も感じなくなった。ただ一度だけツグの後ろ姿が脳裏に浮かんで、すぐに消えた。
覚えているのは、それが最後だった。
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