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結末(前編)
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初めて足を踏み入れる懲罰房は、地上とは比べ物にならないほど暗く湿っていた。ところどころに小さな電球が設置されているものの、半数くらいは切れてしまっている。
両側には鉄格子で区切られた独房が並び、錆びた拘束具が転がっていた。ツグはこんなところにいるのか、と胸が痛む。
「……」
――あの悪夢のような夜から目覚めたとき。隣にいたのは、泣きそうな顔をした西園だった。
俺が何か言うより早く、気付いてやれなくてごめん、守ってやれなくてごめんと謝られた。西園のせいではないのに、何度も頭を下げられた。
彼を宥めてから、自分の体を確認した。痛みはそれほどではなく、怪我も思ったより酷くないようだった。それより頭がぼうっとすると呟くと、二日間も眠りっぱなしだったんだから当然だと告げられ唖然とした。
俺の疑問は当然で、それを西園も見越していたのだろう。居住まいを正すと、改めて状況を説明してくれた。
あの日から、すでに二日が経っていること。俺を辱めた受刑者たちは一方的な暴行を受けて病院に担ぎ込まれたため、ここにはいないこと。あの夜のことは一部の者しか知らず、緘口令が敷かれていること。
そして、ツグが懲罰房に入れられていること。
『……っ』
心臓が跳ねた。どうしてツグが、と急かすように口を挟むと、分かってると溜め息を吐かれた。
『今回の暴行の加害者が、ツグだからだ。ツグがあいつらを病院送りにしたんだ。作業部屋にいた五人を、あいつはたった一人で半殺しにしやがった』
『……え……』
『現場は酷いものだった。全員が顔面を殴り潰されて、体の骨を折られてた』
『な……』
『あいつの怒りは尋常じゃなかった。相手が気絶しても暴行し続けるツグを、刑務官が数人がかりで取り押さえた。被害の酷さに、ツグはその場で懲罰房行きが決まった』
『ツグは……どうして、そんなことをしたんだ』
西園の眉根が寄り、ぐっと押し黙る。どう伝えるべきか迷っている気がして、そのまま言葉の続きを待つ。だが、その答えは分からないという一言だった。
――どうして、ツグが?
疑問は不安と焦燥を生み、胸を締め付けた。
一体、眠っている間に何があったのか。ツグに何があったのか。どうしてこんなことになってしまったのか。
混乱する思考を、西園の声が遮る。
『俺は……あの夜のことは、全部ツグが仕組んだことだって思った』
『え……?』
『だってそうだろ? あいつはお前の気持ちを知ってて、お前をいいようにしてきた。ツグにとって、降野は……っ』
シーツに触れた指先に力が入る。白い布が波打つ。彼にかけるべき言葉が見つからず、吐息だけで先を促す。
『……あいつらに乱暴されたお前を見つけたとき、絶対にツグのせいだと思った。許せなかった。だから……ツグを問い詰めに行ったんだ』
『……』
『……だけど。ツグは……お前がされたことを知らなかった。……あいつは、何も知らなかったんだ』
目を伏せた西園が弱々しく吐き捨てる。そして両手で顔を覆うと、それきり黙り込んでしまった。
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