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第1話 出会い
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「わーーーー! ゆ、幽霊だよね」
ここはぼくが入院中の個室。この部屋にぼく以外の子どもがいることはまずない。しかも今の時刻は夜の十時。普通だったらこんな時刻に個室内に他人が入り込むなんてありえないよね。
今日ぼくは小児病棟の談話室で聞いたんだ。この病院に幽霊が出るって…………。だからこれは幽霊なんだって思ったんだ。
ぼくはゴクリと唾を飲み込んで幽霊の方を見た。幽霊はぼくと同じぐらいに見えた。黒い髪が少し乱れている。顔を真っ赤にさせ目を潤ませてぼくの方をじっと部屋の入り口を少し入った位置で見つめていた。左目の下には泣きぼくろがあった。濡れた黒い瞳は黒いダイヤモンドのようで憂いを帯びた表情さえ神秘的に見え、なんて綺麗な幽霊なんだろうと思った。ぼくはその幽霊に一目惚れしてしまったのだ。
* * *
ぼくは葉山昴(はやま すばる)八歳。小児がんになってしまって旭台総合病院に入院している。この辺りでは大きな病院で有名らしい。
ぼくは背が平均よりもだいぶん低いみたいでクラスでは低い方から数えて三番目だ。そして体力のあまり無く、ライトブラウンの柔らかいくせっ毛の髪に琥珀の瞳をしているし、男らしくない顔立ちをしている。男女の性の他に第二性と呼ばれるものがあるけれど中学二年になるまではバース性は調べないことが多いからぼくの第二性別もまだ不明。だけど見た目などからオメガじゃないかと言われることが多いんだ。
今年の秋の始めにぼくはお頭が痛くなることが多くなって病院を受診した。検査の結果小児がんであることが分かったんだ。それでこの病院に入院することになった。
ぼくは五階にある小児科病棟にある個室506号室を使っている。この部屋には小さな浴室とトイレがありベッドの横にはテレビ付きの床頭台と小さな木製のテーブルと椅子とロッカーがある。扉を開けた向こう側が窓になっておりそこから中庭がよく見える。今は紅葉で葉が黄色や赤に染まった木々の様子が見える。日中は散歩する人々をよく目にした。
一人で中庭を散歩することは禁止されていたからこの窓から外を眺めたり携帯型のゲームを自宅から持ってきてもらって時間をつぶすことが多かった。
ある日談話室に行くとこんな話しを聞いた。
「なあ、知ってるか? この病院幽霊が出るんだぜ。しかも普通の人には見えないんだ。もうすぐ死ぬ人だけが見えるんだってさ」
「えっ。幽霊がいるの?」
「そうらしいぞ」
ぼくに自信満々の態度で伝えた少年は話し終わると他の同じぐらいの女の子の所に行ってしまった。どうしよう……幽霊が出るってあの子が言ってたけれど、もし自分にもその幽霊が見えてしまったらどうしよう。
怖くてどうしようもなくなり点滴棒をぎゅっと握りしめる。大急ぎで自分の部屋に戻ると、部屋に鍵をかけ窓のカーテンを全部引き布団を頭から被った。
「怖い、怖い、怖い…………」
体を小刻みに揺らしながらぶつぶつとそう呟いているといつの間にか眠ってしまった。
一時間後。巡回に来た担当の看護師さんが部屋をノックした音で目が覚めた。その後ガタガタと音がして看護師さんが扉の鍵をガチャリと開ける音と看護師さんが室内をコツコツと歩く音がした。
「昴くん、駄目でしょ。看護師がすぐ部屋に駆けつけることが出来なくなるから鍵はもうかけないでね」
「はい、ごめんなさい」
頭から布団を被ったままだったので布団から顔だけを出して小さな声でそう答えた。幽霊が怖いからやりましたなんて恥ずかしくって言えないよ……。
「うん、もうしないでね。点滴終わりそうだから新しい点滴もって来るね」
そう言って看護師さんは部屋を出て行った。良かったバレてない。ぼくはホッと息をついた。
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