アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夜明け前
-
まだ飲みたりない。そう言って賑やかな街明かりを背に二人で酒屋へ入る。もう夜も遅いのに店内は人で溢れていた。
「好きなお酒は?」
「ペローニ。」
「evviva‼︎僕もだよ。よく飲むのかい?」
他愛のない話を繰り返し、店内を一周する頃にはカゴには沢山の酒とツマミが入っていた。顔を見合わせて、もう一度カゴを見る。
「君、こんなに飲める?」
「まさか。」
そう言いながらも結局カゴから減ったのはグラッパひとつだけで、二人でがらんがらんと大きな音を立てながら袋を揺らした。
「家はどこらへん?」
「あと少し。この角を曲がった突き当たり」
「あの大きな屋根の?」
「そうそう、それ」
角を曲がるとわぉん、と犬が吠えた。その大きな犬のいるお隣が俺の家だ。正直にいうなら一人暮らしなので2階は物置にすら使っていない。部屋だって使っているのが五部屋、物置に四部屋だ。
「お金持ちなんだね」
「親の金だよ」
荷物を一度玄関前におろして大きな扉に鍵を差し込んだ。ひとつ回して扉の取っ手を押す。ギィーという建て付けの悪い音がした後に扉はひらいて薄暗く、長い廊下が続いて居た。
「どうする?俺の部屋で飲むかい?それとも庭?」
「君の部屋」
「それはお誘いなのかな?ホーレット」
「まさか。少し肌寒いだけだよ」
つれないなぁ。そう言って拗ねたように唇を尖らせるとホーレットは笑って俺の背中を叩いた。玄関から三番目の扉を開く。部屋の前で靴を脱ぎ捨てるとホーレットもそれを見習ってくれた。
「綺麗だね。なにもない」
「ベッドがあるだろ。あとテーブルも」
「壁は綺麗だね。真っ白で天井も高い」
荷物を床に置いてクローゼットからザブトンを取り出す。平たくて少し硬いそれをテーブルを挟んだ並行状に並べる。
「なに、それ」
不可思議そうにザブトンを見ているホーレットに、座るのだと教えてやればゆっくりと近付いた。おそるおそる、とでも言うようにザブトンに腰を下ろしてまた柔らかく笑う。
「珍しいね。この部屋だけ土禁?」
「si。友人にgiapponeseがいてね。この平たいクッションもそいつからもらったんだ」
ガサガサと音を立てて買った酒瓶をテーブルの横に並べる。テーブルの隣に置いてあるガラスケースから背の高いグラスを二つ。
「giapponeか。いいね、一度は行きたい国だ」
「そうか?俺は行きたくないな…あいつらは細かいんだ。俺の仕事場のgiapponeseなんて生意気だし」
「僕は会ったことがないからね。祈りに来るのは皆イタリア人さ。」
黒髪の強気な同僚を頭に浮かべて苦笑をもらす。それに、あっちの国だと俺らのような奴らは密やかな目で見られることが多い。ジロジロと見て来るわけでもなければ気にしないわけでもない。一度だけ言ったが、とても不愉快だったことを覚えている。
「じゃあ、日本酒は飲んだことあるか?」
背の高いグラスに、同僚から貰った日本酒をとぷとぷとつぐ。飲んだことがない、と首を振ったホーレットは物珍しそうにグラスに注がれる透明な液体を見つめていた。
「まずはそのまま。」
「grazie。…不思議な香りがする。」
少しだけつがれた日本酒の香りにすこし顔を歪め、紅い舌を少しだけ見せながら日本酒を舐めた。ぬるりとした舌が部屋の古い電球に照らされて官能的に映りこむ。
「…ううん、不思議な味だ。」
口元を抑えるホーレットを笑い、先程買ってきたライムを袋から取り出した。皮をナイフで削り農薬を落としつつ香りを引き出す。そしてそのライムをホーレットのグラスに半分絞り入れ、半分を落とした。
「もう一度飲んでみて」
「si」
グラスに顔を近づけて今度は舐めずに、小さな口にそれを含んだ。そのまま喉仏を動かして飲み込む。
「あれ、独特の臭みが消えた」
「美味いだろ」
「とても!」
もう一度日本酒のライムロックを作ってやればゆっくりとツマミに手を出しながらもグラスを口に運ぶ。そんなホーレットをみながら自分はペローニを飲む。
どれだけ飲んだのだろうか。よく分からないが、気がつけば俺はテーブルに伏せて。ホーレットはそんな俺に凭れて目を閉じていた。長いまつ毛を眺める。端正な顔なのに、それでもやっぱり昨晩と同じで何処か幼く映る。
「ホーレット」
ゆっくりと身体を動かしてホーレットをベッドに凭れさせる。まだ赤みの残る頬に軽くキスを落として台所へ向かう。飲みかけの酒瓶や空の酒瓶も全て運ぶ。夜明け近くまで飲んでいたからなのか腹は空かなかったが、冷蔵庫にトマトがあったので簡単にパスタを茹でた。吹きこぼれないようにみながら材料を刻み、トマトの皮を剥く。向けたトマトのハリのある皮が、昨晩のホーレットの舌と重なって見えて、ドキリと胸を高鳴らせた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 26