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一人残して
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結局はその日、なにもしなかった。ただ二人で俺が借りっぱなしにしているDVDを観て、買い出しにいって。帰ってきたら酒をひと瓶だけ飲み干す。つぎに目を覚ましたら朝だった。時計をみて急いで支度を始める。ここまで熟睡したのも久しぶりな気がして腕のなかにいたホーレットのおかげなのかと思考を巡らす。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
互いに頬にキスを落として朝日が眩しい中俺は外へ出た。ホーレットを置いていくのは不安だったが仕事なので仕方が無いと自分に言い聞かせた。いつも通りの大きなMが書かれた看板。地下鉄の目印のそこには沢山の観光客がいた。
黒髪、金髪、派手に染めたピンクもいた。その隣を通り過ぎる何人かが「In bocca al lupo」と声をかけていく。自分もそのようにしてみると、嬉しそうに手を振られたり、小首を傾げたり、照れるようにしたを向いたりはにかんだり。様々な反応が返ってくる。
可愛らしい外国人達に頬を緩ませながら地下鉄の階段を降りる。女の子は可愛らしい。それは万国共通だし全人類が持つ感情なんだろう。朝から幸せな気持ちでいっぱいになる。だからこそ、いつも見かけても話しかけない同僚の背中を見つけて、駆け寄った。
「おはよう、奥村」
「おはよう、今日は元気だね」
「お前は眠そうだな。日本へ帰るんじゃなかったのか?」
「まさか。日本から友人が来ただけだよ」
ふぅん、とつまらなさそうに唇を尖らせる俺に奥村は鞄から取り出した袋を見せる。ピンク色の紙袋。
「なんだ、これ」
「君が言ったんじゃないか。日本酒だよ。いも焼酎と日本酒。如月くんに持って来てもらったんだ」
「grazie!」
ズシリと重みのある紙袋を自分の鞄にしまう。奥村はよく俺の家に遊びに来るgiapponeseだった。小生意気で、うるさくて態度がでかい。よくgiapponeseは奥ゆかしいとか言うけどあれは嘘だな。と思いたくなる。
「ところで如月って?」
「六年前から一緒に住んでる同居人。目つきが悪いし気もきかないけどまぁ、いい人だと思うよ。一度日本に帰ってたからね。」
「お前と六年も⁉︎俺なら死んでるぜ」
失礼だなぁ、と頬を膨らませて奥村は俺の足を踏む。こいつの、こういう勝気なところが嫌いなんだ。どかされたあとの靴をみて、踏み返す。職場に着く頃にはもうなんだかホーレットが恋しくなっていた。
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