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君の喜ぶ顔を見たくて
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「君は惚れたら尽くすタイプなんだね」
「その通り」
仕事帰り、電車の中でみたチラシをもとにとある家へ向かう俺と、それについてくる奥村とその相方だという如月。別にデキているわけではなく、ただの同居人だという。俺は奥村にカムしては居ないから、それが本当なのかはわからないが。
「シムニートは恋人がいるんですか?」
「si。とこで如月。君はイタリア語は?」
「不得意です」
「みたいだね」
シムニート。奥村が揶揄する意味で俺をそう呼ぶと、如月も俺のことをそう呼んだ。悪気がないことはわかっているが。
「にしても、シムニートは犬と仲が悪いんだよ」
「日本の諺、だろ」
そう。電車の中に貼られたチラシには沢山の子犬の写真とそこに添えられた言葉。里親募集、だった。バーニーズ。まだまだ小さいが大きくなるその犬を連れて帰りたい。そう思った。
「ところでなんで奥村はついてくるんだ」
「暇だからね」
「わざわざ如月を呼び出して?」
「だって荷物が重いじゃないか」
我儘な男の荷物を半分以上、文句も言わずに持ち続ける如月が哀れではあったが、酒瓶が入った鞄を持っていたので手を貸すこともしなかった。
「あ、ここの家ですね」
如月が黄色い屋根の大きな家の前で止まる。庭からはわんわんと犬の鳴き声が聞こえた。チャイムを押すと庭から少し小太りな男が出てくる。
「こんばんわ」
「こんばんわ。…おや、チラシをみて来たのかい?」
「si。」
「ちょうどよかった!最後の一匹なんだ」
手招きをされたので手入れの行き届いた芝生を踏みつける。庭には犬用のおもちゃが転がっている。大きなセント・バーナードが三匹、小さなセント・バーナードが五匹、バーニーズが二匹だ。
「好きな子を選んでくれていいよ、みんな元気だ。病気もしてない」
荷物を庭に置かせてもらい、駆け寄ってくる犬を抱き上げる。足元にまとわりつく犬や草木の匂いを嗅ぐ犬。その中で一匹。くりんくりんの目を輝かせて俺の足元に座り込みただ俺を見上げるだけの犬がいた。
「…お前は美人さんだな」
呟くと嬉しそうに尻尾をバタつかせる。だがそれ以上はなにもせずに、ただただ見上げてくるだけだった。
「ウチにくるか?」
甲高い子犬独特の鳴き声が、ひとつ。
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