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「え、いつから?」
「いつからって…始めから??」
始めからって…
出会った頃からってこと??
「だから、諦めろ」
そういうことかぁー
って、納得する訳がない。
「ミエコが幼稚園の頃にな、男の友達と近所で遊んででな。可愛かったんだよ」
そんな師匠の優しい表情を見たいわけじゃない。
っていうか、ミエコは今何歳だと思ってるんだ。そんな太古の昔の出来事をつい昨日のことのようにうっとりと話す師匠が気持ち悪い。
「え…って、いう…かさ…」
師匠と初めて会ったのは、学生の頃だった。
当時ミエコと付き合っていた。男女の関係にもなったし、お互い初めての彼氏彼女だったし、それなりに盛り上がりもした。義理の父親だと紹介されて、初めて面を合わせた時の事が走馬灯のように駆け巡る。
「なんでボクに手出してくれなかったんですか!!」
初めて師匠に出会った頃からずっと、性癖を変えるほど師匠の事が好きなのに。
「は?なんでお前に手ぇ出さなきゃなんねんだよ」
自分にとっては天地がひっくり返るほどの出来事でも相手にいたらそりゃあ大したことないわけで…
「だって、出会った時学生だったじゃないですか!?」
「はぁ??お前ぇ、ショタの意味わかってんのか?」
それが恋心を諦めさせるような嘘だったとしたらお粗末すぎる。
師匠はそんな嘘をつく人だとは思えないし、もし揶揄われたとしても師匠を思う気持ちは根深いので、そんな冗談を受け入れられるわけはない。
「だって、ボクその頃ギリギリ、ショタだったでしょ?」
平均的な男子学生よりは成長期は遅い方だったし、今だってまばらにしか髭は生えないくらい男性ホルモンは薄い方だ。
「あぁ〜ん?ミエコと付き合ってた頃?チン毛生えてただろ?」
「み、見てたんですか!?」
ミエコとの性行為を見られたと勘違いして目を見開くが、あの時は確か公園のトイレだったか学校の空き教室だったか…いかんせん、学生の頃だから覚えていないが、猿のように盛っていたように思う。
「んなわけねぇだろ!一緒に銭湯行ったことあっただろーが!」
そうだったか…?
学生の頃に師匠と一緒に銭湯に行った思い出なんて全然ない。出会ってからしばらく経っていたような気もするし、ミエコと付き合っていた頃のような気もする。
ただ何度も一緒に銭湯に行ったことがあるのは確かだ。この家には風呂がないから、近くの銭湯に行かなければならない。
その時にきっと覚えたのだろうが、師匠の全身の刺青を隅から隅まで言えるし、それを図案に起こせと言われればできるのに、それをいつ記憶したのかがさっぱりわからない。師匠の刺青については、もはや家の壁紙に近いかもしれない。その壁紙がいつからそうだったのかは、何かに紐付けなければ思い出すことができない。何の思い出にも紐づいてない記憶を思い出すことを放棄する。
「最近は、男の娘もののAVにハマっている」
師匠の性癖については、もうよくわからない。
どうして少年と男の娘が繋がって、師匠を興奮させるのかの方程式が全く理解できない。
腕を組んで、鼻から紫煙を吐き出して、誇らしげにいう師匠を見て怒りが湧いてくる。大方、好きな男優?でも思い浮かべているのだろう。名前でも出したら、今すぐ殴りかかっていたところだ。
「師匠っ!ボクというものがありながらっ!!!」
「はぁあ?何わけわかんねぇこと言ってんだよ」
訳のわかんない事を言っているのはお互い様だ。
今まで、師匠と色っぽい話をしたことがなかっただけに、ショックが大きい。
だったら、我慢する必要なんてなかったじゃないかと思うと余計に顔が赤くなっていく。
相手は、男で自分も男だ。そもそも、遊び相手としてだっとしても、それが過ちだったとしても何も問題ないじゃないか。
それを餓鬼の戯言だと交わされていたことが急に恥ずかしくなっていく。
だったら、あと1歩強引に踏み込んでいれば、この思いは叶ったんじゃないか。不完全燃焼を続けなくても済んだんじゃないか…
「…お前、顔赤いぞ?」
もっと下心を出して師匠の好みとか初恋とか、聞いておくんだった。特に性癖の話とか。ミエコを育てていたから勝手にノーマルだと思い込んでいた部分が大きい。そういえば、どうして結婚しないのかとか、聞いたらいけないと思って聞いてこなかった。
「師匠!」
「だからなんだよ。さっきっから何回も呼びやがって」
師匠は、タバコを弾いて灰皿に灰を落とした。
「ボクって、ギリギリいけますよね!?」
「バカやろ イけるわけねぇだろ」
ショタコンの意味をわかっているのか、もしくは頭がおかしいのかと師匠は呆れていた。身長が189センチに伸びてしまった今、年のせいで年々縮んでいく師匠との身長差は30センチ以上ある。
「でも、ボクVIOの処理してるし」
「なんだそれ?」
師匠がその言葉を理解できないことは知っていたので、説明する。
「だから、ちん毛とか下の毛を脱毛したんです」
「なんで?」
師匠は首を傾げていた。
「なんでって…特別な意味とかないですけど」
「…」
海外だと割と普通のことだったりするが、師匠にはやはり理解できないようだ。ショタコンで男の娘のAVは見る癖に。
「っていうか、ボクに『ゲイ』とか言っといて自分だってそうじゃん」
「別にゲイを否定したわけじゃねえ」
まぁ、確かに。そうかもしれないけど…
なんだか一気に体の力が抜けていくのを感じた。
師匠が、人に対して偏見を持って差別したことはきっと一度もない。外国人であろうと、ヤクザであろうと、カタギであろうと皆一様に師匠に無防備な体を晒す。
「っていうか、男の娘で抜けるんだったら、ボクだっていいじゃん」
肺の中に電子タバコの煙を深く吸い込む。
「自分の都合の良いように考えてんじゃねぇよ。だから、ショタコンだつってんだろうが」
出会った頃から、性癖が変わるほど師匠のことを慕っているのに、師匠にとったら大したことじゃなくて…
いや、でも師匠がさっき言っていたことを思い出してみる。一緒に銭湯に行った時に陰毛が生えていた時のことを覚えていて、自分は忘れているのだから、お互い様といえばお互い様なのかもしれない。
ということは…
師匠にとって自分は好みの範疇を超えているから、全く受け付けないと言うほど相手にされてない訳じゃない可能性の方が高い。例えば、顔は好みだったけど脱いだらショタじゃなかったことに消沈してしまったとか。
自分の娘の彼氏の下の毛の事情という、赤の他人のどうでも良いことを覚えているというしょうもない情報だけで、自分の都合に良いように捉える。
「VIO処理しといてよかった。じゃあ、今度ボク女装します」
「人の話を聞け」
電子タバコのフィルターに口をつけて息を吸い込む。
なんだか、タバコがいつも以上に美味しく感じた。
「ところで師匠は、ショタに手を出したことあるんですか?」
「ねえよ」
ミエコの友達に悪戯をするような碌でもないおっさんだと想像してはみるものの、どう考えても身体中に刺青の入った強面のおじさんに近づいてくるような子供はいないだろうという結論に至る。例え、何かしらの方法を駆使して懐柔させたとしても、風貌が目立ちすぎるから直ぐに怪しまれて捕まるだろうし、師匠は警察に逮捕されたことはないらしいから、きっと嘘ではない。
「ご飯とオカズって違げぇだろ?」
「はぁ…?」
また訳のわからないことを言い出す。
「つまりな、ご飯っていうのは例えば奥さんだったりするわけよ。オカズっていうのはAVってことだな」
どんな美学なんだよ。
「でも、師匠に奥さんいないじゃないですか」
結婚したこともないくせにかっこいいことをいう師匠を詰る。
ショタコンというのを拗らせて頭がおかしくなっているんだと思うことにした。
「まあな」
じゃあ、ずっとオカズだけを食べて生きてたってこと?
っていうか、ショタコンとそれはどういう関係があるのか?
「よくわからないです」
こういう大人になりたいと思うものの、こんな大人にはなりたくないとも思う。
「ところで、お前は俺で勃つのか?」
というか、この人の常識に付き合おうと思った時点で間違っているんだと負けを認めが方がいい。惚れた方は、自分なんだから…
「当たり前じゃないですか」
格好をつけて従順に、大人しい弟子を演じていたが、それになんの意味もなかった。もっと、見境なく若さを逆手に取って好き放題やればよかった。何をこんなおっさん相手に遠慮していたのだろう。
「こんなくたびれた汚ぇおっさんなのに?冗談だろ?やめとけ」
もっと若くて、ピチピチしたお姉ちゃんがいるだろうと、いつもの古めかしい言葉で揶揄する。
「嫌だね」
年季の入った派手な刺青は、脱いでも服を着ているように艶やかさを保っている。それだけで、拝む価値はあると思う。
師匠の体の刺青は、そのまた師匠の遺作だと言っていた。手癖が強く、豪胆でド派手な絵柄を手掛けることのできる職人は、さすがにこの世にはいない。師匠の弟子になった頃には、もうとっくにその人はいなかった。師匠が一生かけて惚れ込むような人なのだから、よっぽどの人だったんだと思う。けれど、話を聞く限り師匠以上に個性の強い人だったらしく師匠でさえ、師を越えられないと言っていた。それが一針一針表れていると言ってもいい。
一寸の隙間なく刻み込まれた師匠の刺青は、師匠が生き続けるかぎり彫り師の生き様そのものも、体に刻まれている。刺青は、絵画と違って人間の皮膚に彫るものだから、人間の皮膚が劣化すればするほど崩れていく。
それでも、師匠の体に彫られている刺青は歳のわりに劣化をしていない。まるで、それも計算されていたかのようにしっかりとした形を保ち色褪せない。
「昔っから、お前ぇは物好きだな。このド変態」
電子タバコのフィルターを灰皿に捨てる。師匠の吸い殻と違って焦げてないのが妙に目につく。
「師匠の弟子だしね」
刺青の入った体に触れると、他の皮膚と違ってほんのり冷たい。
ー おしまい ー
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