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この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
残酷なシーンがありますのでご注意ください。
コンクリートを力強く歩く足音が聞こえ、千明は意識を取り戻した。
頭痛がするほどキツく目隠しされていて視界は暗闇だった。下着以外何も着ていないのがわかると同時に、寒さで体が震えた。頭上から、冬の突き刺さるような隙間風が吹いている。
先ほどまでの記憶を遡る。
「F社の社長を暗殺しろ」———それが、千明に下された命令だった。
殺人という罪を犯すのは初めてではない。
旅行客とは思えない軽装で中国に送られた千明は、空港を出てから真っ直ぐに宿泊施設へと向かった。
身分証明証のいらない古びた宿だった。夜までの時間をそこで過ごし、深夜11時、タクシーに乗ってパーティー会場を目指す。
パーティーと聞いてダンスパーティーのようなものをイメージしていたが、山奥の廃村を丸々使った言わば”お祭り”で、提灯の赤い炎が会場を染め上げていた。そこを歩くのは民族衣装をひらつかせた金持ちの招待客で、それぞれ酒や料理を楽しんでいる。
千明は深海色の布地に金の龍の刺繍が走る衣装を身に纏い、髪はいつも通りツーブロックを少し遊ばせる程度にしておいた。
アジア人の顔は一応見分けられるつもりだが、日本人は自分の他に1人しかいないように思えた。それも、新聞で見たことのある有名企業の社長だ。これでは自分が浮いてしまうのではないかと千明は内心焦りを感じた。なんせ、20代前半で知名度も何もない若造だ。協力者も今回はいない。
中国語も堪能ではない。日本で詰め込んできた中国語を反芻する。
暗殺対象者はすぐに見つかった。家主のいない家の庭に、それとは不釣り合いな高価なテーブルとベンチが置かれ、男が美人に挟まれながら楽しく酒を飲んでいる。テーブルには色とりどりの寿司が並んでいた。
その様子を背に、並べられた高級酒を眺める。白酒に手を伸ばしたところで、横から伸びてきた手が千明の手を止めた。手の主は、黒と赤の布が美しい民族衣装を纏った男だった。
中国語で何かを言う。声が小さいのもあり聞き取れなかったが、恐らく担当の者が淹れてくれると教えてくれたのだろう。「あぁ、失礼」と手を引いた。
それから、何かの流れで男と酒を飲むことになった。男は話が上手く、また千明を強引に引き止めるため、気づけば1時間が経っていた。いよいよターゲットが女と寝床に消えていきそうになったところで席を立つと、男は千明の袖を引き、そこから……そこからの記憶が、ない。
咳払いをするも声は反響しない。足音のさらに遠くに街の喧騒が聞こえるので、恐らくどこかのビルの物置だろうと考えた。
千明は冷静にその足音へと耳をすませた。革靴が小気味よく床を鳴らす。1秒間に3歩のスピードでこちらへ向かってきている。
手足は椅子に縛り付けられ、一切の動きを封じられていた。身を捩って椅子の重みを確かめる。
力を振り絞ってもびくともしないであろうと実感させられたところで、静かにドアが開いた。
先ほどの足音の主が千明に近づく。2メートルほど遠くで微かに聞こえた息遣いに、相手は若い男だと気づいた。
「おはよう、千明くん」
自国の人間と違わない流暢な言葉づかいだが、恐らく中国人だ。
目隠しが外される。薄暗い照明の下に男の姿が浮かんだ。漆黒の髪に肌は白く、瞳がほんのり赤みを帯びている。
特徴がなく記憶に残らない顔立ちだが、よくよく見ると恐ろしいほどに整った顔をしている。まるで人造人間のようだ。
千明はその顔をしばらく見つめ、ハッと思い出す。
昨夜、自分はこの男と寝たのだ。
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