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囚われの人形は、自分だけの優しい神様に出会った
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両腕の肘、両足の太もも、膝、ふくらはぎ、脛、脇腹、それに火傷した鎖骨など、身体のいたるところを蹴られる。
「うう、うっ。う、あ……」
十発くらい蹴られたところで、耐えるのが限界になった。身体中が悲鳴を上げている。もう、何もできない。
「ぐっ!!」
太ももを足で踏まれた。
辛い。苦しい。死ぬ。
……クソ。
阿古羅に反抗するって言ったのに、これじゃあ少ししかできてないじゃねぇか。
俺、このまま死ぬのかなぁ……。父さんに殺されて。
……嫌だなぁ。嫌だけど、どうしようもないのかなぁ。殴られた頭と、何度も蹴られた身体が痛すぎて、ろくに動けもしなければ、喋る気力もわかないし。
「ハッ。所詮お前は口だけだな。俺に反抗しようとしても、力じゃかなわないとわかるとすぐに諦める。本当は、死ぬのが嫌だなんて思ってないんだろ。そんなんだからすぐに諦められるんだ」
「うっ」
「なにか言いたそうだな。とってやるから、言いたいことがあるなら言ってみろよ」
口からぬいぐるみを剥ぎ取られる。
口に溜まっていた唾が、地べたにポタポタと溢れる。
「……しっ、死ぬのはいっ、嫌だ」
余りにぽろっと、本音が漏れた。
苦しくて喋る気力もなかったハズなのに、なぜかそう言えた。
約束をしたからだろうか? そんな約束を守る力なんて、もう自分にはないというのに。
「アハハハハ! そうか。嫌かぁ? 残念だなあ、それなのに、俺に散々甚ぶられた後で、車に轢かれて死ぬことになるなんて」
父さんは命乞いをする俺を見て声を上げて笑った。
このままだと、本当に殺される!!
「やっ、……やめろ」
息も絶え耐えになりながら、俺はか細い小さな声で言った。
「やめろ? 奴隷の分際で俺に命令するのか?」
俺は、父さんを思いっきり睨みつけた。
「何だその目は? ナメてるのか?」
口の中にぬいぐるみを詰め込まれ、右手の人差し指の骨を第二関節まで折られた。
異様なほど熱い熱と痛みに襲われる。ぬいぐるみが唾でぐっしょぐしょに濡れた。痛すぎて、涙が滝のように溢れ出す。こんなのただの拷問だ。
「じゃあ死ぬか、海里」
そう言うと、父さんは道路に人気がないのを確認してから、俺を車道の手前まで連れて行った。
「まっ、待って……父さん、俺、死にたくない
っ」
「命乞いもここまでくると面白いな。分かった。そんなに生きたいならお前にチャンスをやるよ」
そういうと、父さんはニヤリと笑った。
「チャンス?」
一体何をさせようとしてるんだ?
「海里、お前、俺の親父のことは覚えてるか?」
じいちゃん?
『海里、今日は何して遊ぶ?』
じいちゃんの声が、頭をよぎる。
俺はじいちゃんにもう五年も会っていない。
虐待をされるまで、俺は父さんの実家で五人で暮らしていた。
母さんと父さんと、俺とじいちゃんとばあちゃん。それで五人。
じいちゃんとばあちゃんは優しくて、孫の俺をとても可愛がってくれた。毎日毎日、へとへとになるまで一緒に遊んでくれた。
そういう人達だったから、父さんは虐待を始めるとすぐに俺と母さんと父さんの三人で暮らす新しい家を買って、俺をじいちゃんとばあちゃんから離れさせた。
虐待がバレたら、毎日喧嘩をする羽目になると思って。
「覚えてるけど……?」
じいちゃんがどうしたんだ? 何で急にじいちゃんの話なんてするんだよ。
「今から親父に電話をかけてやるから、親父に選ばせろ。金か、孫の命かを」
「は?」
「俺の借金の保証人は親父なんだよ。つまり、親父が今すぐにでも金を払えば、お前は死なずに済む。親父にいえ。今自分が死にそうだってことと、親父が借金を肩代わりすれば、自分は助かるってことを」
「本気で言ってんのか?」
じいちゃんは七十代で、年金で生活している。そんなじいちゃんに、金か俺の命かを選ばせろって?
「ああ。ほら、さっさと話せ。タイムリミットは一分だ」
そういうと、父さんはズボンのポケットからスマフォを取り出して、それを十秒ほど操作してから、俺の足元に置いた。
スマフォには、じいちゃんとの通話画面が表示されていた。
『もしもし』
じいちゃんの声がスマフォから聞こえてくる。
どうすればいい。
年金で生活してるじいちゃんが借金の肩代わりなんてしたら、ただでさえ決して裕福ではない生活が余計苦しくなるに決まっている。そんなの想像するだけで嫌だ。
でも……。
「なーんてな。アホか。俺がお前にチャンスなんてやるわけねえだろ、この馬鹿が!!」
そう言うと、父さんは通話を切り、スマフォをポケットにしまって、悪魔のように笑った。
「ふざけんなっ! このクソ親父!!」
大声で叫んだ俺を、父さんは嘲笑した。
「フッ。じゃあな、海里。あの世で、幸せに暮らせるといいな」
父さんは背中を蹴って、俺を車道に投げた。
あーあ、このままじゃ俺が事故で死んだことにされちゃうな。俺が親の本意で殺されたという事実がもみ消されてしまう。でももう、身体中が痛くて、何もできやしない。
――ゲームオーバーだ。
……クソ。
なんで俺だけこんな目に遭う。何で母さんは助けに来ない。なんであいつは実の子供にこんなことができる。なんで俺はこんなに苦しまなきゃいけない。なんでなんで。頭の中が、『なんで』という言葉でいっぱいになった。理由を説明されたところで納得できるわけでもないくせに、その言葉でいっぱいになった。
前から車が迫ってきた。
……ああ、もうダメだ。
そんなことを思った刹那、俺の意識は途切れた。
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