アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
神様に出会って、人形は選んだ。神様と生きることを
-
――ああ、解放されたんだ。逃げられたんだ俺は。永遠に解放されたわけではないけれど、つかの間の自由を手にすることができたんだ。
五年ぶりに。
「大丈夫。地獄は天国になるよ。俺がそう保障してやる」
阿古羅はそう言って、優しく俺の背中を撫でた。
俺には、その言葉が本心で言ってる言葉なのかも、俺を貶めるために言っている言葉なのかも分からなかった。
――阿古羅と一緒にいれば、本当に地獄は天国になるのか?
心の中にいる悪魔は、『阿古羅は父親に言われてお前に近づいたんだよ。今まで言ったことは全部詭弁で、お前の一番の弱点を見破るために言った言葉なんだよ。だからそいつと逃げてもよくないことしか起きないぞ』と言っていた。その一方で心の中の天使は『阿古羅を信用してもいいんじゃない? きっと何もかも本心でやってくれているんだよ。大丈夫。地獄は本当に天国になるよ』と言っていた。
人を信じるのが怖くて、俺はその二つの気持ちで揺らいだ。
揺らいだけど、阿古羅と暮らしてみようと思った。
父さんと暮らしたくないなら阿古羅と暮らすのが一番いいと思ったし、スパイかどうかは一緒に暮らす中で判断してもいいんじゃないかと思ったから。
俺達は阿古羅の家のそばにあるコンビニの前で、タクシーを降りた。
タクシー代は結局俺の家に寄ったりもしたからか一万円じゃとても足りなくて、阿古羅にも払って貰った。
母さんの残りの金を使っても良かったんだけど、阿古羅が「俺も払う」って言ったから。
コンビニで歯ブラシを買って、阿古羅の家に足を進める。
十階建のマンションの二階の右端にある二○一号室が、阿古羅の部屋だった。
阿古羅は鞄の中にあった鍵で部屋のドアを開けると、直ぐに靴を脱いで中に入った。
「お邪魔します」
靴を脱いで、部屋の中に恐る恐る足を踏み入れる。
中に入ると、玄関の隣にあるキッチンがすぐに目に入った。
キッチンはガスコンロも、調味料が入っている棚も、食器もすごく綺麗だった。
その綺麗さは料理をしてないから綺麗なのではなく、常日頃から料理をしているから、日常的に掃除をしている感じの綺麗さだった。
阿古羅って綺麗好きなんだな。
キッチンの前には紫色のテーブルが置かれていて、その後ろには紫色のベッドがあった。ベッドの向かいには紫の整理タンスと紫の衣類ばかりがかかったハンガーラックが置かれている。
いくらなんでも紫ありすぎやしないだろうか?
ベッドの上にある布団まで薄紫だし、本当に不自然なくらい紫が多い。
「紫の家具多すぎないか?」
「ああ、うん。俺紫好きだから」
そう言うと、阿古羅は顔を俯かせた。
「ふーん」
なんで好きなものの話してるのに下向くんだ?
聞かない方がよかったのかな。
「うわっ、布団ぐちゃぐちゃだな」
掛け布団がぐちゃぐちゃになってるのを見て、阿古羅は顔をしかめた。
急に話を変えられた。
やっぱ聞かない方がよかったのか。
「とりあえず海里はベッドで寝て。すぐ整えるから。俺は寝袋で寝る」
阿古羅は布団を直すためにベッドのそばに行こうとした。
「阿古羅、俺、寝袋で寝ようか?」
俺はベッドに向かおうとする阿古羅の服の裾を掴んだ。
「それはダメ、絶対。あんな夜中に自殺しに行ったくらいだし、お前虐待のせいで睡眠浅いんだろ? だったら絶対ベッドの方がいい」
阿古羅が俺の手を取って言う。
「……なんで?」
「ん?」
阿古羅は不思議そうに首を傾げた。
「何で阿古羅は、俺のことそんなに気遣ってくれんの?」
「お前が虐待を受けてたから」
「それはそうだろうけど、他にも理由があるんじゃないのか?」
行動が変なことは本人には言わない方がいいと思ったから、言い方を変えてみた。
「んー、海里と友達になりたいと思ったから、じゃ駄目か?」
阿古羅がベッドのそばに行って、布団を直しながら言う。
「え? 友達?」
俺は目を丸くする。予想外の答えだ。
「ああ。簡単に言うと、海里が放っておけなかったんだよ。そんだけ」
俺は眉間に皺を寄せた。
……本当にそれだけか?
「なんか照れるし、もうこの話やめていいか?」
阿古羅が顔を赤くしながら言う。
「うん」
俺は渋々頷いて、布団を直すのを手伝うために阿古羅のそばに行った。
「手伝ってくれてサンキューな。それじゃあ海里、とりあえず今日は俺のベッドで寝て。これもう決定だから」
布団を直し終わったところで、阿古羅は言う。
「うん、わかった。ありがとう」
俺は笑って頷いた。
「ん」
「あ、阿古羅、これ、足しにして。生活費の。少ししかないけど」
ズボンのポケットから母さんの財布を取り出して、阿古羅に差し出す。
「あ、いいよ。大丈夫」
首を振って、阿古羅は笑った。
「え? なんで?」
「その金は生活費として使わなくていいから、好きなモノでも買えよ。その方がお前のためになる」
「でっ、でも……」
「大丈夫、金ならあるから」
阿古羅は問題ないとでもいうように笑った。
「……ありがとう」
俺は戸惑いながらも礼を言って、財布をしまった。
俺達はそれからすぐに歯を磨いて、俺はベッドで、阿古羅はクローゼットにしまってあった寝袋で寝た。
ちなみに寝袋も紫だった。
やっぱり紫が多すぎる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 103