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神様に出会って、人形は選んだ。神様と生きることを
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いつの間にか、俺は車の助手席に座っていた。
「えっ、ここって」
どうなってるんだ。阿古羅の家にいたはずなのに。
もしかして、夢か? 誘拐でもされない限りは急にこんなことになるなんてありえないし。
「海里、よくも逃げ出してくれたな」
「父さん?」
運転席には父さんが座っていた。
父さんは俺の首に縄を掛けると、それで俺の首を締めた。
「うっ、あっ」
息ができない。首が圧迫されて、呼吸困難に陥る。
これはあまりに酷くて、現実味のない夢だ。俺が死んだ時に虐待がバレるのを懸念してる父さんが、俺を縄で締めようとするわけがない。
「海里! 海里!!!」
誰かに肩を揺さぶられて、俺は現実に引き戻された。
目を開けると、目と鼻の先に阿古羅の顔があった。
「あっ、阿古羅?」
阿古羅がとても心配そうに俺の顔を覗き込む。
「大丈夫か? すごいうなされてたぞ?」
「ああ、ありがとう」
ゆっくりと身体を起き上がらせ、ため息をつく。
またうなされてたのか。まあ夢の内容かなり酷かったしな。
俺は虐待が酷くなってからほぼ毎晩ああいった悪夢にうなされている。
「海里、ベッド寝心地悪かった?」
「いや、そんなことないと思う。気にしなくていいよ、俺がうなされてるのは日常茶飯事だから」
俺は枕元にあった白猫のぬいぐるみを触りながら言った。
「いや気にしないとダメだろそれは! ベッドじゃなくて問題は虐待か。はあ。俺が兄だったら、海里を守ってやれたのに」
「……ありがとう。その言葉だけで充分」
「海里、ダブルベッド買い行こう。そんで今度から二人でベッドに寝よう。そうしたら海里が悪夢にうなされた時、俺がすぐに気づけるから」
「え、いいよそんなの」
「気にしなくていいから」
阿古羅が笑って言う。
俺は必死で首を振った。
「いいいい!」
「わかった。なら一人用の布団かソファ買いに行こう。そんで二人で横に並んで寝ようぜ」
「……うん、ありがとう」
俺は作り笑いをして頷いた。
「ああ。そういえば、まだ言ってなかったな。おはよう、海里」
「……お、おはよう」
驚きながら、俺は挨拶を返した。
びっくりした。父さんはいつも怖い顔でしてくるか、あるいはしてくれないかのどっちかだし、母さんは父さんが事故を起こしてから仕事を沢山するようになったから、朝起きたら家にいないのが大半で、ろくに挨拶をしてなかったから。
「どうした? そんな驚いて」
阿古羅は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……びっくりして。誰かにちゃんと挨拶されたの一年半ぶりだから」
俺は髪をいじりながら、言葉を返した。
「え、嘘? 母親は?」
目を見開いて、阿古羅は尋ねる。
「……母さんは仕事を掛け持ちしてて、そのせいでいつも数時間しか会えなかったから、挨拶なんてもう全然してない」
「……そっか。海里の母さん、何の仕事してんだ?」
「水商売とスーパーの店員」
「掛け持ちなんだ?」
「うん。俺が朝起きる時間よりも早い時間から夕方までスーパーで働いて、夜の零時くらいから朝の五時まで水商売やってる」
俺の言葉に阿古羅はまた目を見開く。
「なんでそんな働いてんだ?」
「……俺が十歳の時に父さんが事故起こして、損害賠償金払うために借金を作っちゃって。それで、父さん今もその返済に苦しんでるから、母さんが三人の生活費と俺の学費払ってて」
父さんが保険金目当てで俺に虐待をしていることはわざと伏せた。話したくなかったから。
「もしかして海里の父親が虐待してるのって、保険金目当て?」
「え、なんでわかったの」
まさか当てられると思ってなくて、かなりびっくりした。
「俺の母さん、死亡保険入ってたから。ほら俺一人っ子だから、自分が死んだら父親と二人っきりになちゃうから、せめて金だけでもとか考えてたんじゃねえの? まあ最終的に自殺したから、入ってるの無駄になったけど」
思わず言葉に詰まる。
どうしよう。何か言わないと。
「海里の父さんは、お前を事故死にしようとしてたのか?」
俺が言うより先に阿古羅が質問をしてきた。
ああ、気を遣われてしまった。
「う、うん。虐待は俺を車に轢かれそうになっても逃げたりしないような奴にするためにしてた」
俺は気を遣われたのが申し訳なくてつい顔を俯かせた。
「なるほどねえ、そいつアホだな」
「え、なんで」
思わず顔を上げる。
「だって警察か医者の中に少なくとも一人はくらいいるだろ、傷が事故でできたのかそうじゃないのかわかる奴が。それに万が一事故として処理されそうになったら、俺が警察に証拠の動画提出するし」
「父さんはその可能性に気づいてなかったってこと?」
警察か医者が傷を見分けられると思ってなかったのか?
「いや、多分虐待の証拠を持ってる奴がいないから、大丈夫だと思ったんじゃないか? 証拠がなければ、傷が事故の前にできたのだとわかっても、逮捕とかはされずに済むし、金も受け取れると思ったんだろ。まあ俺、証拠持ってるけど」
「ハハ。確かに」
「本当に海里の父親も母親もクソだな」
そう言って、阿古羅は悔しそうに唇を噛んだ。
「でも俺、母さんのこと嫌いになれなかった」
毒親なのに、嫌いになれなかった。
「なんで?」
「……俺、母さんの優しさが好きだったんだ」
いつも笑って怪我の手当てをしてくれて、泣いている俺をいつも抱きしめてくれる母さんが好きだった。好きだったから、その偽りの優しさがどうしようもなく辛かった。
好きだったから、あんなに叫んだ。
愛されたかった。たとえ、何を引き換えにしてでも。
「お前の母親は悪魔だよ。味方のふりをして助けないのが一番タチが悪いんだ。すげえ心を傷つける」
「うん、わかってる。でも、嫌いになれない」
「じゃあ、そのうち腹割って話してみれば? そうしたら、だいぶすっきりするんじゃねぇの?」
「うん」
話せる日なんて来るかわからないけど。
「いやー良かったわ。海里が家出てってくれて」
うんうんと頷いて、阿古羅は言う。
「え?」
「俺、海里が自殺しようとしたのは正直言って今も頭きてるけど、家を出てくれて本当によかったと思う。家にいるのは嫌だって気持ちが海里の中にあって、本当によかった。だってそれがなかったら、こうやって二人で暮らすこともなかったわけだし。それに、もし家を出てなかったら海里はあのまま母親に助けられもせずに父親に虐待を受け続けていたのかと思うと、本当に気が気じゃねぇもん」
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