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神様に出会って、人形は選んだ。神様と生きることを
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ああ、そうか。
こいつは俺を必死で笑わせようとしてたのか。そのためだけに、ゲーセンでぬいぐるみをとったり、プリを撮ろうっていってきたり、水族館に俺を連れてきたり、くだらない冗談をいってみたりしてたんだ。
弱みを握るためとかそういう下心なしで、俺を本気で笑わせようとしていたんだ。
俺はそれに、少しも気づいていなかった。
環境に絶望しすぎて、こいつがスパイなんじゃないかとか、嫌な想像ばかりしていた。阿古羅はこんなに必死で俺を笑わせようとしてくれていたのに。
俺はこいつが本当に親父の何十倍も優しくて俺の地獄みたいな世界を本気で壊してくれようとしている可能性を、少しも考えてなかった。
自己嫌悪と阿古羅への感謝の気持ちが込み上げてきて、涙腺が緩んだ。
「え、ちょっ? 海里?」
涙を流し始めた俺を見て、阿古羅はあたふたする。
「……だよ」
「え?」
「だから、嬉し涙だよ!」
投げやりに言って、涙を流しながら俺は笑った。
「嘘? マジで?」
「ああ。水族館に来れて嬉しい。楽しいよ、零次」
阿古羅の名前を、親愛の意味を込めて呼んだ。
なんでスパイなわけでもないのに監視カメラをつけたんだとか、なんであんなに俺のために怒ってくれたんだとか、そういう疑問はとりあえず置いといて、零次と生きてみようと思ったから。
こいつと生きたら、本当に人生が変わるんじゃないかと思ったから。
「じゃあ、どんどん行くぞ!!」
零次は心の底から嬉しそうに口元を綻ばせると、俺の右手を握って、どんどん水族館の中を進み始めた。
零次にあきれながらついていくと、着いたのは水族館の中にあるBARのようなものだった。
BARには丸いテーブルが二つとカウンターがあって、カウンターはブラックライトに照らされて、きらきらと光っていた。
「いらっしゃいませー。何にしますか?」
零次とカウンターに行くと、店員が声をかけてきた。
「俺はジンジャーエールで。海里は何にする?」
「オレンジジュースでお願いします」
「かしこまりました」
「海里先テーブルのとこ行ってていいよ」
「わかった」
俺は空いてるテーブルのとこに行って、零次を待った。
「えっ!」
テーブルの中央に水槽があって、その中をタツノオトシゴが泳いでいた。
「海里、どうした?」
俺の声に気づいた零次が飲み物を持ちながらそばに来る。
「零次、テーブルに魚いる!!」
「そりゃあ水族館だからな」
零次は当然のように言った。
「でもここ、BARじゃん!!」
「ああ、確かに。クク、クククッ。あーおかしっ! 海里って結構子供っぽいんだな」
零次は急に喉を鳴らして笑った。
「こっ、子供っぽい?」
「ああ。テーブルに魚がいるだけで大騒ぎしたり、魚が近づいてくるだけで喜んだりはしゃいだりしてさ。覚めてるのかと思ったら、意外と子供みてぇなとこあるよな」
口の前に手をやって楽しそうに笑いながら、零次は言う。
「……馬鹿にしてんのか?」
とても馬鹿にされている感じがして、俺は思わず眉間に皺をよせた。
「いや? 安心してる。お前にそういう何かを見て笑ったり、驚いたりする素直で子供っぽいところがあってよかった。そういうところが、虐待のせいでなくなったりしなくてよかった」
零次はとても嬉しそうに口角を上げて笑った。
余りにまっすぐすぎるその答えに驚いて、俺は言葉を失う。
「子供らしく、楽しく生きようぜ海里。俺らまだ高一なんだしさ! なにもかも諦めたりとかしないでさ!」
零次は俺の火傷してない方の肩に腕をのっけた。
……そうだ、俺はまだ高校一年生だ。
人生を諦めるにはまだまだ早い。早すぎるんだ。
「うんっ!」
俺は思わず零れそうになる涙を必死で堪えて、零次の言葉に頷いた。
「これは平気なんだな?」
俺の肩にのっけている腕を見ながら、零次は言う。
「うん。大丈夫、かも」
「そっか。頭までもうちょいだな」
笑いながら、零次は言う。
「ハッ。どんだけ頭撫でたいんだよ」
俺は呆れながら言った。
「えーだって、俺はいつも母親に頭撫でられて安心してたから、海里にもそういうの味わってほしいと思ってさ」
「ありがとう」
俺は笑って、礼を言った。
その日から、俺は零次を信じることにした。
スパイじゃなくて、本当に死を怖がってて、俺の環境に我慢ならなかったから監視をしたんだと思うことにした。
まだ会ってから日も浅い俺のことで、なんでそんなに怒ってくれるのかとか、カメラをどうやって手に入れたのかとか色々疑問ではあるけれど、とにかくそう思うことにした。零次が必死で俺を笑わせようとしてくれたのと、俺の人生を変えてやるって言ってくれたのに、とても心を動かされたから。
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