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子供は消えた。人形に最後の最期まで嘘をついて。
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あいつがいない現実なんていらない。欲しくない。だって、俺を人にしたのはあいつだから。
俺はあいつに出会うまで、人形みたいになっていた。いや、人形になるのを望んでたんだ。感情なんてあっても意味ないって、どんなに死にたくないって願っても、叶わないと想っていたから。
あいつはそんな俺に人でいていいって、自分の意思を殺すなって言ってくれた。
理不尽な世界に反抗する気力もなくして、酷い世界を良くしようともせずにいた俺の目を覚まさせてくれた。
神様みたいに、俺のことを救ってくれた。
――自分も地獄みたいな世界にいたハズなのに。本当は俺を助けたいなんて思ってはいけない環境にいたのに、俺を助けてくれた。
地獄だった世界を、本当に天国に変えてくれた。それなのにどうして! どうしていなくなんだよ! 人の人生勝手に変えたんだから、最後まで責任持てよ!
お前は結婚したら、その一ヶ月半後に離婚をする奴なのか?
右手首にあった紫色のリストバンドを額にあてる。
母さんが親父に燃やされた零次の帽子をリメイクして作ってくれたやつだ。帽子がタオル地だったから、燃えてなかったとこを編んで、リストバンドにできたんだそうだ。
リストバンドで涙を拭っていたら、紫色の糸がベッドに少しだけ落ちた。
なあ零次、今どこにいんだよ。
お前がいない世界は、物足りなくて仕方がねえよ。
十分休みにクラスメイトと話している時、あるいは独りで本を読んでいる時に、なんでお前がいないんだろうって、考えないようにようにしようとしても、嫌でも考えてしまう。
他にも放課後家に帰ってる時や家でテレビを見ている時など、日常のあらゆるところでお前の姿が目に浮かぶ。
なんで、どうして、身投げなんかしたんだよ!
『紫色のものを見るたびに母さんが喜ぶかなと思って買って、部屋に置いてからいないのを実感して後悔にかられるなんてことにはならないハズだったんだ』
零次が言っていた言葉が頭を過った。
母親が死んだ時の零次もこんな気持ちだったのか?
零次が紫色のものを見るたびに母親を思い出していたのとように、俺も紫色のものを見るたびに零次を思い出している。
そして零次と同じように、紫色のものを見るたびに、俺は後悔にかられている。なんで零次を助けられなかったんだろうって想いに囚われている。
俺に助けを求めなかったのは、きっとあいつの意思だ。俺を巻き込みたくないっていう。
それでもあの日、俺が零次を助けられなかったのも紛れもない事実だ。
あいつはきっと、心のどこかで俺に助けを求めてた。俺に助けを求めてたから、江ノ島の海の前で縮こまっていたんだ。
あいつはたった独りで、俺を待っていたんだ。
だって本当に助けを求めていなかったら、俺が江ノ島に行く前に身投げをしてるハズだから。
それなのに生きていたってことは、本当は心のどこかで、俺に助けを求めていたってことになる。
あいつの心の中にはきっと、俺に助けられたいって想いと、俺を巻き込んじゃいけないっていう相反する想いがあった。それなのに自殺を選んだのは、あいつが最終的に後者の想いを優先して、俺を守ろうとしたからだ。
その想いを優先したのは、きっとあいつが俺を大切にしていたからだ。
あいつはいつも俺を大切にしてくれていた。つまり今回も、そうしただけのことだ。
でもその行為は同時に、あいつが自分を大切にしてないことの証明でもあった。
あいつは自分を大切にしていなかった。俺には散々自分を大切にしろって言ったくせに。
俺はそれが我慢ならない。どうしても納得できない。
あいつが俺を守るためだけに身投げをしたと想いたくない。そうしたことを認めたくない。いや、認められない。少なくともあいつの口から、『お前を守るために身投げをしたんだよ』って言葉を聞かない限りは。
ハッ。アホらしい。
本当はあいつが俺を守ったってことくらい、本人に聞かなくてもわかっているくせに。
それでも認めたくないのは、あいつが俺に自分を大切にしろって言ったから。だって人には自分を大切にしろって言っておいて、本人は自分を大切にしてないなんて、矛盾しているにも程があるだろう。
俺はあいつの口から聞きたい、身投げをした理由を。たとえそれが絶対に不可能なことだとしても。
『お前のために身投げをしたんだよ』って言われると、わかりきっているとしても。
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