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子供は消えた。人形に最後の最期まで嘘をついて
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「ああ、そのことか。あいにくだが、それは却下だ。ナンバーを覚えられでもしたら困るからな。代わりに、いいもん見せてやるよ」
「なんですか、いいもんって」
思わず眉間に皺を寄せる。
一体なんなんだ。
「お前が見たがってるもんだよ。さっさと着いてこい」
そう言うと、零次の父親は近くにあった階段を降りて、どこかへ向かおうとする。
俺は慌てて後を追った。
マンションの路地を抜けた先にあった一軒家の前で、零次の父親は足を止めた。
家は二階建てで、壁がクリーム色だった。
ここが本当の零次の家なのか?
まあ零次は監禁をされてたから、ここには余りいなかったのかもしれないけど。
零次の父親はジャケットの内ポケットからキーケースを取り出すと、そこにあった鍵でドアを開けた。
零次の父親が家の中に入っていく。
「入れ」
先を促され、俺は慌てて中に入って靴を脱いだ。
玄関を抜けた先にある廊下の左側には脱衣所があって、右側にはキッチンとダイニングがあった。
「こっちだ」
零次の父親が廊下の突き当たりの階段を上がる。
階段を上がった先にある廊下には、二つの部屋が横並びで並んでいた。
手前にある部屋は床の全体に敷かれている絨毯も家具も紫で、まるで俺と零次が暮らしていた部屋のようだった。
零次の母親の部屋なんだろうか。
「あっ」
よく見たら、その部屋の家具の大多数が、俺と零次が暮らしていたあのマンションの部屋にあったものだった。あの猫のぬいぐるみも、枕元にある。
「懐かしいか?」
零次の父親が振り返って、俺を見ながら言う。
「処分しなかったんですか」
零次をよく思ってないこいつのことだから、てっきり部屋も家具もとっくに処分していると思っていた。
「ああ。アパートの部屋は売り払ったけどな」
「どうして」
「面白かったからだよ、あの部屋の異常性が。一人暮らしを始めた時あいつがこの家から持ってったのは、その紫色の絨毯と、机と寝袋くらいだった。実際、あの母親がここで使ってた家具なんてその絨毯と机とタンスと布団くらいしかなかったからな。それなのにあいつは、一人暮らしを始めた途端、まるで宗教にハマった子供みたいに異様なほど紫色の家具を集めて、あの部屋を胸焼けがするほど紫でいっぱいにさせた。あいつの生活費と家賃を負担してる俺がどんなに文句を言っても、あいつは紫色のものを買うのをやめなかった。その異常性が面白くてな。なあ、お前は知ってるのか。あいつがどうして、あんなにも紫色のものを集めるのか」
「母親のことを、とても大切に思ってるからでしょう」
「半分正解で、半分ハズレ。あいつが紫のものを集めてたのは、母親のことを考えている時だけは、俺に支配されてることを、自分が籠の鳥だってことを忘れられるからだよ! つまりこの家具は、あいつの母親への執着と、俺への恐怖心を現してんだ」
「――っ!?」
心臓が張り裂けそうだった。
的を射ている気がした。
言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。だって、異常だ。あんなに紫のものしかないなんて。家具だけじゃなくて、服や帽子なんかもあんなに紫のがあるなんて、常軌を逸しているにも程がある。まさかそれが父親の恐怖心からくるものだなんて、考えもしなかったけれど。
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